普通の動物病院の診療日記

November, 2010
-
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
-
-
-
-
PROFILE
shu

小さな町の動物病院の獣医師です。

MYALBUM
CATEGORY
RECENT
RECENT COMMENTS
RECENT TRACKBACK
ARCHIVES
LINK
SEARCH
PR




Jun 21, 2006
猫白血病 2

さて、感染した時の年齢によって、予後が大きく変わります。

文献によって多少差はあるものの、おおむね以下のようになります。

いくつかの文献や本から拾ってきたものです。

 

・新生子期に感染したもの

 ほぼ100%が死亡。

 あるいは70-100%が持続感染になる。

 

・離乳期(生後1〜1ヵ月半)に感染したもの

 50%が治癒。

 

・8〜12週齢に感染したもの

 30〜50%が持続感染になる。

 

・4ヶ月齢を超えてから感染したもの

 90%が治癒。

 

・1歳以上の成猫になってから感染したもの

 10〜20%未満が持続感染になる。

 

執筆された年や研究者によって若干の違いはありますが、ほとんどの場合、小さい(若い)頃の感染は致死性が高く、成猫になると90%近くが助かるという結果になっています。

 

持続感染になってしまった場合、感染後2年で63%が、3.5年で83%が亡くなるという研究報告があります。

 

持続感染になる前に見つかれば、インターフェロンなどによって免疫力を高める治療を行えるので、少しでも陰転させることができるよう、多くの猫たちがウィルス検査を受けられることが望ましいと思います。

 

急性感染を乗り越えたものの、残念ながら陰転せずに持続感染期に入った場合、発症するまでは一見健康であるかのように見えます。

しかし、検査では陽性となります。

このような場合はなるべく発症させないようにするため、ストレスを与えない生活をさせるようにしましょう。

特に、妊娠・出産はストレスの面からも、母子感染の面からもやめさせなければなりません。

 

次回、検査についてもう少し書いてみたいと思います。

Jun 20, 2006
猫白血病 1

今回は猫白血病についてです。

これもご存知の方が多いでしょうし、ネットでもたくさんヒットしてきます。

 

猫白血病ウィルスの感染は、母猫の胎内にいるときに起こる胎盤感染や、母乳からの感染もありますが、母猫が子猫を一生懸命育てる際に唾液から感染することが最も多いとされています。

同じ食器の飲み水などからも感染が起こりますが、一度や二度の接触ではなく、持続的な接触がなければ感染は成立しないようです。

また、喧嘩による咬傷からも感染は起こります。

複数の猫を飼っておられる場合は、グルーミング好きな猫たちがお互いの体を舐め合うことで感染が成立してしまいます。

 

感染したウィルスは、最初口や鼻に近い局所のリンパ節で増殖し、次に血液中のリンパ球などによってあちこちのリンパ節に運ばれて増殖します。

そして骨髄に入ります。

骨髄は「造血」する場所なので、血液に様々な影響を与えます。

この辺りまでが急性期であり、発熱、リンパ節の腫脹、下痢、貧血、血小板減少、白血球減少などの症状が起こります。

 

そして、骨髄内で増殖しながら、感染した血液中の好中球(白血球の一種)や血小板によって唾液を分泌する唾液腺などの細胞に感染します。

そして唾液など、体から分泌される体液からウィルスが出てきて、他の猫に感染することになります。

これが慢性期であり、ウィルスを持ち続ける持続感染となり、発症してしまうと実に様々な病気や症状を起こしてしまいます。

リンパ腫やリンパ球系の白血病、腎不全、口内炎、免疫性疾患など様々です。

 

さて、病院では血液から感染を調べることができます。

ELISA法と言われる検査法で、ウィルスの体を構成するp27というタンパク質の有無を調べます。

ウィルスに感染しても、最初にウィルスは口や鼻に近いリンパ節で増えるため、すぐには血液検査で発見することができません。

 

感染してから3,4週間たたなければわからないようです。

したがって、子猫などを保護されて、調べてみようと思われた場合、陰性であっても、3,4週間後にもう一度検査してみる必要があります。

 

そして、もしも陽性であった場合、その時点では猫白血病ウィルスは体内に存在していることになります。

しかし、この時期は急性期であり、ここで軽症であったり無症状であればウィルスは体外に追い出され、治癒してしまう例もあることが知られています。

また、インターフェロンによって免疫力を高める治療や、その時に呈している症状に応じた対症療法で治癒を目指す治療を行います。

 

そして、4ヵ月後に再検査をします。

その時点で陰性になっていれば、治癒に向かっている可能性がかなり高いでしょう。

治癒すれば、生涯、猫白血病に感染することはありません。

 

逆に再び陽性であれば、持続感染になっていると考えられます。

治るか治らないか、感染した時の猫の年齢によって大きく差が出てしまうようです。 

 

Jun 16, 2006
猫エイズウィルス感染症 その2

潜伏期には猫エイズウィルスが血液中のリンパ球の中に潜み、症状を現さずに数年間の潜伏期間を過ごします。

場合によってはその猫の寿命がくるまで発症しないこともあるため、統計的には猫エイズウィルス感染症によって猫全体の寿命は縮まらないとされています。

しかし、個々の猫のことを考えると発症してしまえば当然寿命は縮まってしまうため、感染していることがわかったら発症しないように努めてあげることが大切です。

ストレスのかからない環境を作ってあげることや、良質のフードを与えること、少しでも病気の兆候が見られたら様子を見ないでなるべく早く治療を受けさせることなどが必要です。

 

潜伏期の次に、発症してしまうと、慢性的に様々な病気を繰り返したり進行させたりしながら次第に悪化していきます。

これも数ヶ月〜数年という時間をかけながら終末期へと向かいます。

 

猫エイズウィルスは、「細胞性免疫」という大切な免疫の役割を果たしてくれているT細胞というリンパ球を攻撃し、減少・消失させてしまい、猫を免疫不全症という状態に陥らせてしまいます。

T細胞にも数種類ありますが、ここではわかりやすいように単にT細胞とだけ書きます。

T細胞は体内に侵入してくる様々な病原体をやっつけてくれる細胞ですから、それがなくなることによって、病原体に負けてしまい、いろいろな症状を起こしてしまいます。

一般的によく見られるものに、口内炎や目やに鼻水などがあります。

次第に痩せてきたり、貧血が起こってきたりするものも見られます。

 

また、免疫は外敵から身を守ってくれるだけでなく、腫瘍が発生するのを防いでくれる働きもあるので、その力が不足することで、ある種の悪性腫瘍も発生しやすくなってしまいます。

 

こうして発症してしまったものが初めて「エイズ」すなわち「後天性免疫不全症」と呼ばれます。

「エイズウィルス感染」=「エイズ」ではありません。

したがって、先に書いたように、発症させないように、そして他の猫にうつさないようにすることが大切です。

 

エイズウィルス感染症の検査は、動物病院で簡単にできます。

血液を採取して、その中のエイズウィルスに対する抗体を調べることで、かなり精度の高い検査結果が得られます。

しかし猫エイズウィルスに感染してから抗体ができるまでには個体差があるため、2ヶ月くらい他の猫と隔離してから検査を受けるか、あるいは一度検査を受けて陰性であってもすぐに他の猫と接触させず、やはり2ヶ月くらいしてから再検査を受けなければなりません。

 

ただ、子猫の場合は、喧嘩以外で母親からの感染はないため、ほとんど猫エイズウィルスには感染していないはずです。

 

しかし、猫白血病に関しては、まったく違うので、次は猫白血病について書こうと思います。

Jun 15, 2006
猫エイズウィルス感染症 その1

猫たちの繁殖シーズンに伴い、病院にも生まれて間もない子猫たちの来院が増えてきました。

もらった、拾った、うちで産まれた、人に譲る、様々な理由で健康診断とかワクチン接種に来院されます。

 

その中で、「エイズや白血病の検査をしてください。」と言われる方々も増えてきました。

そういう病気があるということをお知りになられ、ご自分で飼われるためのみならず、人に譲るのに病気がないことを確認してから譲りたいと言われる飼い主さんも増えてきています。

 

そこで、猫エイズと猫白血病について簡単に。

まずは猫エイズについて。

 

多くの方がご存知でしょうけれど、猫エイズは猫免疫不全ウィルス感染症と言います。

ヒトのエイズウィルスをHIV(Human Immunodeficiency Virus)と呼ぶのに対し、猫ではFIV(Feline Immunodeficiency Virus)と言います。

 

免疫力を落としてしまう病気です。

ヒトから猫へ、猫からヒトへはうつりません。

 

感染経路はほとんどが猫同士の喧嘩によります。

咬傷によって唾液中のウィルスが感染してしまいます。

エイズウィルス自体は感染力が弱く、舐めあい・出産・交尾・授乳などによる感染はほとんどありません。

現在はほぼ100%が喧嘩からの感染であろうと言われています。

 

感染してしまうと、感染後1〜2ヶ月後に一過性の発熱、リンパ節の腫脹(ほぼ100%)、下痢、皮膚の感染症など、様々な症状を現します。

血液検査では貧血や好中球の減少などが見られます。

それらの症状は数週間から数ヶ月続きますが、気が付かれずに過ぎてしまうことが多いようです。

この期間を急性感染期と言います。

 

残念ながら日本では昔から猫を外に出して飼うのが当たり前であったため、野外にはエイズウィルスに感染している猫がうようよいます。

そこへ飼い猫(特に去勢していないオス猫)を放すと、当然、縄張り争いの喧嘩になり、エイズに感染する機会が増えてしまいます。

 

常日頃から喧嘩して帰ってくる猫の場合、耳や顎の下のリンパ節が腫れていても、「いつものことだ」と見過ごされてしまうことにもなります。

もし、その猫がエイズウィルスに感染しているとしたら、その猫と喧嘩する猫にも、そしてその次の猫にもと、どんどんと感染が拡がっていきます。

 

本当は猫を外に出して欲しくありませんが、どうしても室内飼いが無理な場合は、せめて去勢や避妊をして欲しいと思っています。

ただ単に望まれない子猫を増やさないということ以外に、エイズを増やさない、他の猫にうつさないということにもつながります。

 

そして次に無症状の潜伏期に入っていきます。

Jun 10, 2006
走る、走る。

病院嫌いな中型ワンコ。

診察が終わって、一秒でも早く病院を出たかったらしい。

うん、うん、その気持ちはよくわかるさ(笑)。

 

会計もあるから踏みとどまろうとする飼い主さん。

出口に向かって一生懸命後ずさりするワンコ。

飼い主さんはとりあえず車にワンコを乗せることに。

 

その時、首輪がスポッと抜けた・・・・。

 

外は雨。

ビューっと飛び出して一目散に逃げるワンコ。

 

交通量の多い道路もすぐそばにある。

受付でワンコが逃げるのを目撃した女性スタッフ2名。

スワっと外に飛び出して雨の中ワンコを追っかける。

 

飼い主さんは車で先回りを狙う。

 

追っても追っても、手が届きそうになるとまた逃げる。

スタッフは一度病院に駆け戻り、おいしそうなおやつを持って再び走る。

 

ようやくのことで、何とか大通りに出る前に捕まえることができた(笑)。

いや、笑い事ではない。

もしも車にでもはねられていたら・・・(怖)。

 

僕は知らなかった。

僕に知らせる暇もなくワンコを追ったスタッフと飼い主さん。

びしょ濡れになって帰ってきたスタッフに事情を聞いて初めて知った。

 

あ〜、無事に捕まってよかった〜!!

 

あってはいけないことなのだが、大事にならずによかった。

また寿命が少し縮まったな・・・(涙)。

Jun 09, 2006
布巾丸飲みワンコ

生後3ヶ月半の子犬。

とは言え、すでに7kg以上の大型犬。

 

飼い主さんから電話があった。

「たった今、綿の布巾を飲み込んでしまったんです、大丈夫でしょうか・・?」と、ややパニック気味。

大きさを聞くと、普通の雑巾よりもやや小さめではあるが、到底、幽門(胃から腸への出口)を通過できそうではなかった。

 

すぐに来院してもらい、同じ布巾を持参してもらった。

飲んだのは確実とのこと。

例によって吐かせるかどうか、悩む大きさ。

食道をきちんと通過してくれるのか、途中で詰まったらどうしようか、最初から麻酔して内視鏡で取ったほうが安全ではないか、胃切開は避けてあげたいけど・・・。

いろいろと頭をよぎる。

 

結局、嘔吐させることにした。

  [続きを読む]
Jun 01, 2006
咬傷と治癒機転3 

1149156386624561.jpg

さて、消毒薬を使わないで、創傷面を乾燥させないようにするラップを使った治療を開始しました。

 

この写真は開始後1週間目の写真です。

この間、おうちで水道水で軽く洗浄、ラップをあててもらい、ペットシートをかぶせて包帯してもらっていました。

 

かなり皮膚が再生してきています。

 

 

 

 

1149156430908253.jpg

そしてこの写真が治療開始から20日目の写真です。

 

もうほとんど皮膚ができています。

 

最近は見ていないのですが、去年見たときには毛が生えそろい、ほとんどわからなくなっていました。

 

写真掲載の許可をもらうために電話しましたが、どうやら元気にしているようです。

 

以前は僕も「傷は乾燥させたほうが速く治る」と思い、また「消毒薬で消毒しなければ感染してしまう」と思っていました。

 

創傷部を消毒薬で洗浄していたし、ガーゼに様々な消毒剤を塗って傷口に貼っていました。

ガーゼを剥がすときにはかなり痛い思いをさせていました。

でも、ラップはまったくくっつかないので、ほとんど痛みはありません。

そして、治り方も早いことがわかりました。

 

くどいようですが、すべての症例にあてはまるわけではありません。

必ず素人診断をせずに、病院へ行って相談してくださいね。

 

ちなみに、僕がいつも創傷治療について参考にさせてもらっている夏井先生という人間のお医者様のHPを紹介します。

http://www.wound-treatment.jp/

 

そこにエル・ファーロという動物の創傷治療に詳しい動物病院もリンクしてあり、そこの山本院長先生にも火傷の治療の際にアドバイスをいただいたことがあります。

 

もちそん、その病院は僕とはまったく関係ありません。

 

参考にしてみてください。