普通の動物病院の診療日記

April, 2020
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shu

小さな町の動物病院の獣医師です。

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昔のお話し 6

ついに出発の朝になりました。

けっこうどきどきしています。

不安と期待、正直なところ不安のほうがはるかに大きいですね。

 

言葉はどれくらい通じるのか、どんな人の家に下宿するのだろう、友達はできるのか、とにかくうまくやっていけるのだろうか・・・。

 

やがて日系人の現地スタッフの方がジープに乗って迎えにきました。

「出発するけど準備はできた?」

「はい。」

「じゃ、行こう。」

「・・・、はい。」

 

僕の感傷なんてまったく気にも留めないで彼はあっさりと僕を車に乗せました。

何年もの間、大勢の隊員を任地に運んでいる彼にとって、僕は大勢のうちのただの一人にすぎません。

人はいつもなんとなく自分自身を心の中で物語の主人公にしているものですが(僕だけかな・・笑)、こういう時に自分は主役ではなく、ただの一人なんだと気づかされます。

それでもただの一人であってもどきどきしていることに変わりはありませんでした(笑)。

 

ジープはやがて首都を離れ、国道をどこまでも進んでいきます。

国道沿いの町にある家やお店は近代的ですが、郊外に出るととたんに貧しい家に変わります。

南米によく見られる赤い土、牛・馬・豚・ロバ・ヤギが平気で国道近くを歩き、ニワトリやアヒル、ノーリードの犬もうろうろしています。

国道は意外と交通量が多いのですが、ほとんどの車はボコボコで日本みたいにきれいな車は皆無と言ってよいでしょう。

赤い埃を巻き上げてがんがん走っていきます。

トラックの荷台にはヒトや荷物や、ニワトリやらわけのわからないものが満載です。

 

いずれにしてもこんな景色はテレビでしか見たことがありませんでした。

と言うより、当時は南米だとかあまりテレビでも見る機会はありませんでしたね。

南米旅行のツアーなんてあまりなかったため、日本人の観光客もほとんどいませんでした。

 

そして3,4時間のドライブのあと、ついに車は国道を直角に曲がり、赤い土の道へと入って行きます。

そこから90kmほど奥に僕が住むことになる村があるのだそうです。

景色は先ほどまでの国道沿いとは一変します。

 

無人の赤い大地がどこまでも広がっていました。

 

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