6才のmix犬。
二人暮しのおじいさんとおばあさんが飼っておられます。
ワクチンもフィラリアもきちんとされていましたが、口の中に赤い部分があるのを発見されました。
来院されたときにはすでに写真のように歯の内側にかなり大きな腫瘤ができていました。
レントゲン写真を撮ってみたら、下あごの骨にも腫瘍の陰影が入り込んでいました。
最低でも右側の下顎を全て取らねばならず、もしかしたら顎の関節や左側にも腫瘍細胞が浸潤しているかもしれませんでした。
CTを撮ってみなければ診断はつきかねましたが、うちにはCTはなく、車で数時間かけて大学病院まで撮影に行ってもらわねばなりません。
CT検査をおすすめしましたが、どうしても連れて行くことができないとのことで、結局、うちで右下顎切除を行いました。
病理検査の結果は「扁平上皮癌」でした。
口の中にできる悪性腫瘍としては「悪性黒色腫(メラノーマ)」と並んで代表的なものです。
ただ、悪性黒色腫よりは、転移や他への浸潤が少ないとされています。
(ただし、扁桃にできた扁平上皮癌は転移も浸潤も多く、かなり悪性度が高いです。)
そして残念ながら、摘出した腫瘍の切除縁(切り取った塊の辺縁)にも腫瘍細胞が見られるという病理結果でした。
要するにきれいに切り取れていなかったということになります。
この場合、再手術をして、浸潤のみられた左下顎、そして顎関節部分の切除も必要になりますが、下顎はともかく、顎関節の切除はやはりCTを見て診断してからでなければできそうにありませんでした。
放射線療法にも比較的効果の見られる腫瘍ですが、これも地域的に放射線治療の可能な施設が限られており、飼い主さんたちは到底無理ですとのことでした。
切除後すぐに左の下顎の切除縁に腫瘍塊らしき組織が盛り上がってきていましたが、手術から4ヶ月経った現在、食事療法とある種の薬(抗癌剤ではないもの)でなんとか落ち着いています。
いずれは徐々に進行して行くのでしょうが、飼い主さんたちが現在この子が元気であることをとても喜んでおられます。
どうか、少しでも元気で長く暮らして欲しいと思っています。
以前にも書きましたが、口の中の腫瘍はなかなか見つけにくいと思います。
ですが、悪性度の高いものが多いので、どうか普段から口の中を見るように習慣づけられるとよいかと思います。