普通の動物病院の診療日記

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shu

小さな町の動物病院の獣医師です。

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Nov 16, 2007
明日から大阪

明日から大阪へ行ってきます。

 

鳥取県に本部を持つ動物臨床医学研究所が主催する年次学会が開かれます。

毎年この時期に開催されますが、日本で最大規模の獣医学関係の学会です。

 http://www.dourinken.com/taikai.htm

 

数千人になる獣医学・動物病院関係者が集まって勉強します。

あまりに広くて議題も多いため、どの部屋で勉強しようか迷います。

一般の飼い主さん向けのセミナーもあります。

 

今年、僕は自分のテーマを腫瘍学に重きを置こうと思っています。

明日からの勉強が楽しみです♪♪

Nov 15, 2007
残念な死

以前、「運がいいのか悪いのか」という日記を書きました。

老犬が家から逃げ出して、海で溺れているところをレスキュー隊に助けられ警察に保護された話です。

助かったのだから強運と言えば強運だったんでしょう。

 

今度は逆に運の悪い老犬のお話です。

17才、白内障で目もほとんど見えず、のんびりと暮らしていました。

今から何年か前、フィラリア症で命を落としかけましたがなんとか生き延びて、飼い主さんもそれからはきちんと予防されるようになり、それなりにかわいがられて生きてきました。

 

ある日家からいなくなり、数日後に家のすぐそばの溝の中で発見されました。

病院に運び込まれた時にはまだかすかに息がありましたが、スタッフの懸命の介護のかいもなく残念ながらそのまま亡くなりました。

体はまったく体温を失い、泥だらけになり、ドブの臭いに包まれての来院でした。

人工呼吸しようと胸をマッサージすると胸の中からジャブジャブと水の音がしていました。

もしも息を吹き返していても誤嚥性肺炎でだめだったかもしれません。

 

この寒空の中、何日、あるいは何時間溝の中にいたのかはわかりませんが、体はどんどん冷えていき、泥水を飲み込んで、いったいどんな気持ちだったのか・・・。

大声で鳴いてくれれば誰かに発見してもらえたろうに、まったく声すら聞こえなかったそうです。

飼い主さんは懸命に探され、動物病院や警察などあちこちに電話で問い合わされておられました。

変わり果てた姿を見て、とても悲しんでおられました。

 

元気だったころは病院が大嫌いでした。

いつも大暴れでワクチンやフィラリア検査がたいへんでした。

わんこの冥福を心から祈りたいと思います。

Nov 11, 2007
順番が違いますよ〜(^_^;)

柴子犬の初めてのワクチンに来院された方。

「ワンちゃん飼うの初めてなので、何にもわかりません。これから何をすればいいですか?」とニコニコ顔。

ワクチンの説明、フィラリアの説明、フードの説明、しつけの説明・・・。

 

コーギーを飼い始めてどうしても咬み癖が治らないと相談に来られた方。

「なんでこの子はこんなに噛むんでしょう。顔はかわいいのに短気みたいで。」

コーギーという犬種本来が持つ気性の説明、しつけの説明・・・。

 

んんんんん・・・、何かおかしくありませんか?

んんんんん・・・、どこか変ではありませんか?

 

「そうなんですか、ワクチンのほかにフィラリアの予防もしなければいけないんですね。それに狂犬病のワクチンもなんですね。狂犬病のワクチンは混合ワクチンとは違うんですねぇ。それにフードはそんなに何回も与えなくてはいけないですか?ペットショップでは一日一回でいいと言われたんですけどねぇ。なかなかたいへんなんですね。先生の言われるとおり、一度飼育書を買って読んでみます。」

 

「えー、コーギーって、牧畜犬で噛み付くのが仕事だったんですか〜!?そんなの聞いてませんでした。とってもかわいかったから一目で気に入って買ったのに・・・。これからもっともっと勉強しなければなりませんね♪♪」

 

動物を飼うってことは10年も20年もその子達の面倒を見るっていうことです。

飼い主さんになろうとされておられる方の技術や知識、環境や収入に応じて種類や頭数を決めなければなりませんよね。

 

当たり前のことなのですが、どうも順番が逆になってしまっている飼い主さんが多いようです。

結果的に不幸を招くことにもなりかねません。

 

ここを読んでいただいている方は勉強されておられる方が多いようでうれしく思いますが、みなさんの周りにこれから動物を飼おうとしている人がおられたら、まずは十分に勉強していただけるよう勧めてあげてくださいね。

何も知らないで飼われるより、きっとずーっと楽しく暮らしていけるはずですよー。

Nov 01, 2007
超音波メス

1193898069160122.jpg

写真はわんこの避妊手術です。

左右の卵巣ごと子宮を摘出するところです。

超音波メスで子宮の血管を切っているところです。

 

かつて、卵巣を子宮を切除するとき、出血させないよう卵巣と子宮を走る血管を糸で縛っていました。

 

以前は絹糸が一般的で、強くて緩みにくい糸でした。

しかし、体内で異物反応が起きやすかったり、感染が起きやすかったりで近年あまり使われなくなりました。

 

次にナイロン糸。

柔らかく扱いやすく、比較的異物反応も少ないとされています。

ただ、結び目が緩みやすかったり、いつまでも体内に残ってしまうことになります。

 

そして合成吸収糸。

化学的に作られた人工の糸で、体内で吸収されるためいずれは消失してしまいます。

種類も多く、使用する場所や目的によって使い分けます。

他の糸に比べると高額になります(涙)。

 

糸に対しては無反応の動物がほとんどですが、中にはまれにですが無菌性肉芽腫といって手術後数ヶ月から数年を経て、ぜんぜん違う場所まで細い管(瘻管・ろうかん)を作りそこから無菌性の排膿をする動物がいます。

特にミニチュアダックスに見られます。

 

これはいわゆるアレルギーなどと一緒で、縫ってみなければ(結んでみなければ)わかりません。

運が悪いと言えばそうなのですが、万一肉芽腫ができた場合、わずかでも残っている糸などの異物を摘出するために何度か手術を繰り返したり、それでもどうにも治まらず長期間にわたりステロイド剤などの免疫抑制剤を飲まなければならなくなります。

飼い主さんにとっては「運が悪い」ではあまりにお気の毒です。

 

しかし、もしもその肉芽腫が手術器具とか糸とかが汚れていて、いわゆる「感染性」の肉芽腫であるならばそのような汚い手術自体に問題があることになり、獣医師の責任と言ってもいいでしょう。

ですが、無菌性肉芽腫となるとどんなにきれいな手術でも起こりうる可能性があるわけです。

動物の体質の問題ということになります。

 

さて、写真ですが、卵巣と子宮を糸を使うことなく切除しているところです。

最近、上記のような無菌性肉芽腫を防げるなら防ごうと、このような特殊な機械を使用して手術する病院も増えてきました。

 

超音波メスは機械の先端から出る超音波振動によって組織を凝固切開するもので、4mm程度までの血管なら糸は不要です。

もちろん、血管以外にいろいろな場面でも使うことができます。

 

さらに、血管をシールする専門の凝固装置なら、もっと太い血管まで糸を使わずにシーリングして切開することが可能となりました。

 

僕は先日超音波メスを導入しましたが、数百万円する機械でもあり、誰もが簡単に買えるわけではありません。

こういった機械を使用するからと言って、避妊手術の料金を何万円も値上げすることができないのも辛いところです(涙)。

 

もっとも腹膜筋層や皮下組織を縫うときには糸を使用しなければなりませんから、まったく糸と縁が切れるわけではありません。