写真はわんこの避妊手術です。
左右の卵巣ごと子宮を摘出するところです。
超音波メスで子宮の血管を切っているところです。
かつて、卵巣を子宮を切除するとき、出血させないよう卵巣と子宮を走る血管を糸で縛っていました。
以前は絹糸が一般的で、強くて緩みにくい糸でした。
しかし、体内で異物反応が起きやすかったり、感染が起きやすかったりで近年あまり使われなくなりました。
次にナイロン糸。
柔らかく扱いやすく、比較的異物反応も少ないとされています。
ただ、結び目が緩みやすかったり、いつまでも体内に残ってしまうことになります。
そして合成吸収糸。
化学的に作られた人工の糸で、体内で吸収されるためいずれは消失してしまいます。
種類も多く、使用する場所や目的によって使い分けます。
他の糸に比べると高額になります(涙)。
糸に対しては無反応の動物がほとんどですが、中にはまれにですが無菌性肉芽腫といって手術後数ヶ月から数年を経て、ぜんぜん違う場所まで細い管(瘻管・ろうかん)を作りそこから無菌性の排膿をする動物がいます。
特にミニチュアダックスに見られます。
これはいわゆるアレルギーなどと一緒で、縫ってみなければ(結んでみなければ)わかりません。
運が悪いと言えばそうなのですが、万一肉芽腫ができた場合、わずかでも残っている糸などの異物を摘出するために何度か手術を繰り返したり、それでもどうにも治まらず長期間にわたりステロイド剤などの免疫抑制剤を飲まなければならなくなります。
飼い主さんにとっては「運が悪い」ではあまりにお気の毒です。
しかし、もしもその肉芽腫が手術器具とか糸とかが汚れていて、いわゆる「感染性」の肉芽腫であるならばそのような汚い手術自体に問題があることになり、獣医師の責任と言ってもいいでしょう。
ですが、無菌性肉芽腫となるとどんなにきれいな手術でも起こりうる可能性があるわけです。
動物の体質の問題ということになります。
さて、写真ですが、卵巣と子宮を糸を使うことなく切除しているところです。
最近、上記のような無菌性肉芽腫を防げるなら防ごうと、このような特殊な機械を使用して手術する病院も増えてきました。
超音波メスは機械の先端から出る超音波振動によって組織を凝固切開するもので、4mm程度までの血管なら糸は不要です。
もちろん、血管以外にいろいろな場面でも使うことができます。
さらに、血管をシールする専門の凝固装置なら、もっと太い血管まで糸を使わずにシーリングして切開することが可能となりました。
僕は先日超音波メスを導入しましたが、数百万円する機械でもあり、誰もが簡単に買えるわけではありません。
こういった機械を使用するからと言って、避妊手術の料金を何万円も値上げすることができないのも辛いところです(涙)。
もっとも腹膜筋層や皮下組織を縫うときには糸を使用しなければなりませんから、まったく糸と縁が切れるわけではありません。