普通の動物病院の診療日記

November, 2010
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shu

小さな町の動物病院の獣医師です。

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Apr 23, 2007
生きようとする力 5

書く順番が悪くっていろいろ心配をおかけしました。

 

さて、毎日見に来ていた方が、連絡もなく3日間も来られませんでした。

まあ、土日を挟んでいたし、ご家族でお出かけでもされているんだろうと、平日になってからお聞きしていた携帯に電話してみましたが、「ただ今電話に出ることができません。」とのメッセージ。

お宅の方にも電話してみますが、こちらも留守電でした。

 

前回も書きましたが、動物病院ではこうして動物が置き去りにされたり、お金を支払っていただけないことが時々起こります。

今回も、その連れてきてくれた人を何となく疑いたくなるような・・、そんな自分も嫌だったり、またせっかく回復してくれているワンコの将来が不安になったりといろいろな気持ちが入り混じっていました。

基本的にはその人がとてもよい人だったので、きっと来られるだろうと信じてはいましたよ。

もちろん、この忙しい時期、朝からたくさんの動物達が病院を訪れます。

その子たちには笑顔で接しなければならないので、スタッフ全員、気持ちをコントロールすることが求められます。

まして、診断や治療、手術時には命がかかっているだけに、そのことだけに集中しなければなりません。

 

診療の合間にもう一度携帯に電話してやはり同じメッセージが返ってきて、どうしようかな・・・と思った時、スタッフが「来られました、来られました!」と駆け込んできました。

「おお〜!!♪♪」

 

その方はちょうど病院へ向かう車の運転中で、携帯に出ることができなかったとのこと。

 

4日ぶりに見たワンコはさらに元気さを増し、体重も少し増えていました。

ワンコはその人のことがわかるのでしょうか、その人を見てとても喜んでじゃれ付いて甘えていました。

まだ筋肉は薄っぺらでよたよたですが、それなりにその方の周りをぐるぐる廻っていました。

 

聞けば、僕にアドバイスを受けたとおり、ワンコの飼育書を買って読み、ペットシートやフード入れ、水入れ、サークルなどワンコを迎え入れる準備をご家族みんなでやっていてくれたそうです。

フィラリアの予防やワクチン、徐々に体重を戻していかなければならないこと、与えるフードの種類や量、与えてはいけない物など、いろいろ勉強しておられました。

 

それだけその子を飼うということに覚悟を決めてくださったことに心から感謝したい思いでした。

そしてその日、ワンコはご家族の待つ新しいおうちに帰って行きました。

本当に死に掛けていただけに、懸命に看病したその子を見送るスタッフはまるで我が子を手放すかのような(笑)。

 

これから先、元通りの身体に戻るまで、いろんなことがあるかもしれませんね。

また、新しい飼い主さんになられたご家族も、こんなはずじゃなかったと思われることもあるかもしれません。

 

逆にその家になくてはならない子として育てられて行くかもしれませんね。

 

動物病院においては、今回のようなことは決して珍しいことではありません。

ですが、今回あえて長い日記にしてみたのは、最初のかわいそうなケースが少しでも減って欲しいという気持ち、また、救ってくれた人や実際にそういう活動をしている人たちへの感謝の気持ちからです。

どーか、幸せになってくれますように。

他のたくさんの動物達も多くの飼い主さんたちも幸せでありますように!

Apr 20, 2007
生きようとする力 4

今日は予定していた手術が中止になり、ちょっと時間ができました♪

 

続きです。

ワンコの便は砂や土の便から次第にフードの色に変わってきました。

ただ、表面に付着する血液はかなりの量でしたが、これはあまり心配していませんでした。

きっと食べ始めたフードが、新しい消化管粘膜を作ってくれているはずだからです。

 

ワンコはヨロヨロ、フラフラしながらも少しずつ歩けるようにもなりました。

フードを入れてやると喜んで近づこうとしますが、倒れたり這ったりしながら何とか口にしていました。

様子を見に来られるたびに泣いていた人も、笑って過ごされるようになりました。

 

それにしても連れて来られたときのワンコの血糖値は17mg/dl、通常は空腹時でも70〜80くらいです。

17というのは今までに僕が見た生きている動物の中では最低値でした。

肝酵素であるALT(GPT)やAST(GOT)も数百まで上昇。

これは肝機能不全というよりも、肝臓にも当然ながら栄養が行き渡らず、辺縁の方から壊死し始めていたと思われます。

そして貧血と脱水、毛はぼそぼそで皮膚はフケだらけ。

 

ですが、食べること=生きて行くことだとちゃんと身体はわかっていて、必死で食べようとしていました。

 

もう大きな山は越えたなーと感じていましたが、僕らは別の不安に悩むことになりました。

ワンコを連れてきてくれた人は毎日面会に来てはいろいろ話しかけたり、僕らに犬の飼い方などを尋ねておられたのですが、家族とよく話し合ってくださいねとお願いした翌日に来られなかったのです。

明日も来ますとおっしゃっていたのに、どうしたのかな・・・、と思っていました。

しかし、翌日もその翌日も来られず、電話すらありませんでした。

 

元気になっていくワンコと裏腹に何となく病院のスタッフに重たいムードが流れ始めました。

誰も口には出さないけど、もしかしたらこのまま・・・。

野良ちゃんたちを置き去りにされたことや、飼えなくなった動物を旅行に行くから預かってくださいと偽って置き去りにされたことなど、今までに何度となく経験していますが、今回のワンコは何となく特別な思い入れがあったので、みんな祈るようなきもちでした。

Apr 19, 2007
生きようとする力 3

自力で起立できるようになったワンコ。

栄養価の高いフードを少しだけ与えてみると、まだ口や舌の動きがぎこちないけれど、必死で飲み込もうとしました。

いくらでも食べそうでしたが、いきなり高栄養食を多量に与えると消化器が驚いてしまいます。

 

そこで消化によいフードを少しずつ何度にも分けて与えました。

ワンコはそのたびに待ちきれない様子でフードを楽しみにしているようでした。

 

翌日、連れてきてくれた人が来院されました。

元気になりつつあるワンコの姿に驚いておられました。

そして飼い主さん(家を出て行かれた人)に電話をされたそうです。

状況をお話しすると、その方はもう自分は家にも帰れないし、まったく連絡も取り合っていないため、どうしてあげることもできないから、申し訳ないけれどどうか引き取ってください、よろしくお願いしますと丁寧に頼まれたそうです。

 

ご家族の方も引き取ることに賛成してくださったようです。

 

ただ、まったく犬を知らない人、動物が好きでない人、しかも現在かなり悪い状態のワンコを引き取ると言うことがどれだけ大変なことなのか、十分に理解してもらう必要もあります。

1時間くらい話をしました。

今後、栄養障害により何らかの肉体的な障害が残るかもしれないこと、非常に精神的に追い詰められたストレスから来る精神的な障害が出てくるかもしれないこと、懐いてくれるかどうかわからないということ、排便や排尿のしつけができているかどうか、またできていたとしても現在それを覚えているかどうか、今後、フィラリアや各種予防のこと、病気だってするかもしれないこと、などなど思い出せないほどたくさん説明しました。

 

その人は熱心に黙って聴いてくださいました。

そしてもう一度ご家族と相談していただくことにしました。

明日も会いに来ますと言って帰られました。

 

ワンコは保護してから初めてのウンチをしました。

真っ黒で砂や土らしいものが混じったウンチでした。

空腹のため口の届くところにあるものを懸命に食べていたようでした。

食餌をしたことで消化管が動き始め、腸の中に残っていた古いウンチが出たのでしょう。

何度か出ましたが、そのうち真っ赤な血液が混じるようになりました。

これもおそらく腸の粘膜が壊死してしまっていたのが、動きとともに剥げて出血していると思われます。

 

食べ始めたフードが消化吸収され、良いウンチが出れば一安心です。

Apr 17, 2007
生きようとする力 2

前回のワンコのお話の続きです。

現在、連れてきてくれた人のおうちで暮らしています。

そのうち、様子を見せに病院に連れてこられると思います。

 

さて、初めて病院に連れて来られたときの危篤だった状態は書きました。

食事をほとんど与えられず、非常に痩せ衰えた状態だったので、低血糖状態であるのは間違いないと思いましたが、すでに糖分を飲み込むこともできませんでした。

たとえ飲み込んでも胃や腸が運動して、消化吸収するためにもエネルギーが必要となります。

そのエネルギーの素となるものがブドウ糖です。

例えば人間の場合、エアロビクス運動を20分以上続けると、血液中や肝臓に蓄えられているブドウ糖が消費され、その代わりに脂肪がエネルギーとして使われるそうですね。

ですから脂肪を消費してやせることができるということになります。

 

飢餓状態が長く続くと、まず体内のブドウ糖が消費されてしまいます。

補充されないわけですからつぎに必要なエネルギー源として脂肪が分解され始めます。

そしてその脂肪もなくなるとついには筋肉が消費されてしまいます。

このワンコはその筋肉も限界にきていたわけで、欲しいはずの糖分を飲み込む力もなかったわけです。

 

注射というのは便利なもので、直接体内にエネルギーであるブドウ糖を与えることができます。

数時間で顔を上げることができるようになり、なんと翌日にはよろよろと立ち上がるようになりました。

 

連れてきてくれた人は、最初の日と翌日は、切なさと悲しさ、ワンコの生きようとする力、どんどん回復して行く姿を見て泣いてばかりでした。

 

そのワンコをどうするか・・、実際、最大の問題ですよね。

少なくとも法的には前の飼い主さんの許可か承諾が必要になります。

あるいは動物虐待で訴えるなどすれば、合法的に保護も可能かもしれません。

 

でも、その日や翌日は正直言ってそんなことはどうでもよく、とにかく助けたい、助かって欲しいという気持ちでいっぱいでした。

また回復してきたワンコの目が実に上手に物を言うのです。

何ともいえないかわいい目で、病院のスタッフも連れてきてくれた人もすっかり魅了されていた感じでした。

 

前の飼い主さんにどうしようもない事情があったにせよ、生きている動物に食餌を与えずに放棄することは許されることではありません。

しかし、不思議と今回はそんなことが気にならないのでした。

 

すると、連れてきてくれた人が「私、電話します。何が何でも私にもらいます。」とおっしゃいます(笑)。

子供さん同士は知り合いでも、親は知らない、まして、事情があって家を出ておられる方に電話してワンコの状況を話し、自分が育てると言うのには勇気も必要でしょう。

「今日、電話してちゃんと話してみますから!」と言って帰られました。

その人のご家族もワンコを飼うことに賛成なのかすらわかりません。

強い人なのか、ワンコに魅了された勢いなのか、いずれにしても翌日の報告を待つことになりました。

 

 

Apr 11, 2007
生きようとする力 1

ずっと更新できずにいました(汗)。

4月になると動物病院は忙しくなります。

狂犬病予防接種とフィラリア予防のシーズンが始まるからです。

僕の病院も例外ではありません。

 

しかも今まで獣医師4人でしたが、独立開業のためと家庭の事情のために二人の獣医師が辞めました。

現在、僕と嫁さんの獣医師二人体制です。

まだシーズンが始まったばかりですが、これからどんどん忙しくなっていくんでしょう・・。

今までのように他の先生に診察業務を任せ、僕はパソコンの前に座って日記を書くなんて裏技はできなくなりました(笑)。

 

さて、そんな大騒ぎのさなか、忘れることのできなさそうなワンコが来院しました。

なんとか時間をみつけて日記に残したいと思います。

 

その子の家庭は飼い主さんご夫婦が何らかの事情で別居されてしまい、だれも世話をしてくれなくなり、長い間食事も水も取れなかったようでした。

本来、6〜7kgあるはずの体重が2.7kgしかなく、まさに骨と皮だけといったような状態でした。

人間的に言うと6〜70kgの体重の人が、食事を与えられずに27kgになって発見されたという感じです。

 

横たわったまま身動きができず、すでに身体は硬直し四肢は冷たくなり、体温計では測定不能なほど体温も低下していました。

呼んでも意識はなく、ときどき、ピクッ、ピクッと小さな痙攣がきていました。

口の中に糖液を垂らしても飲み込む力もなく、脱水のため目は眼窩内に落ち込んでいました。

今、まさに死につつあるというところでした。

 

身体を温めながら、なんとか静脈に留置針を通し、水分とブドウ糖の補給を始めました。

痩せ衰えた身体でしたが、まだ生きようとする力が残っていたんでしょう。

数時間後には頭が上がるようになりました。

 

連れて来られた人は、ワンコのおうちのお知り合いです。

子供さん同士が友人とのこと。

おうちの子供さんはなんとか自分でワンコを助けようとはされていたようですが、限界だったようで友達に相談したみたいです。

 

連れて来られた人は、「私は動物が嫌いです。でも子供に頼まれて見に行って、こういう状態を見てしまったら放っておくことができませんでした。動物嫌いの自分がこんな気持ちになるなんて。」と、おいおい泣いておられました。

「もしも元気になってくれたら、これからは自分が飼おうと思います。」とのことでした。

放置されたら間違いなく死んでいるワンコですから、そう言って救っていただけたこと自体ありがたいことではあります。

 

しかし、現実的には元の飼い主さんへのお断りもなく勝手に連れてきておられますし、様々な難しい問題が残っています。