自力で起立できるようになったワンコ。
栄養価の高いフードを少しだけ与えてみると、まだ口や舌の動きがぎこちないけれど、必死で飲み込もうとしました。
いくらでも食べそうでしたが、いきなり高栄養食を多量に与えると消化器が驚いてしまいます。
そこで消化によいフードを少しずつ何度にも分けて与えました。
ワンコはそのたびに待ちきれない様子でフードを楽しみにしているようでした。
翌日、連れてきてくれた人が来院されました。
元気になりつつあるワンコの姿に驚いておられました。
そして飼い主さん(家を出て行かれた人)に電話をされたそうです。
状況をお話しすると、その方はもう自分は家にも帰れないし、まったく連絡も取り合っていないため、どうしてあげることもできないから、申し訳ないけれどどうか引き取ってください、よろしくお願いしますと丁寧に頼まれたそうです。
ご家族の方も引き取ることに賛成してくださったようです。
ただ、まったく犬を知らない人、動物が好きでない人、しかも現在かなり悪い状態のワンコを引き取ると言うことがどれだけ大変なことなのか、十分に理解してもらう必要もあります。
1時間くらい話をしました。
今後、栄養障害により何らかの肉体的な障害が残るかもしれないこと、非常に精神的に追い詰められたストレスから来る精神的な障害が出てくるかもしれないこと、懐いてくれるかどうかわからないということ、排便や排尿のしつけができているかどうか、またできていたとしても現在それを覚えているかどうか、今後、フィラリアや各種予防のこと、病気だってするかもしれないこと、などなど思い出せないほどたくさん説明しました。
その人は熱心に黙って聴いてくださいました。
そしてもう一度ご家族と相談していただくことにしました。
明日も会いに来ますと言って帰られました。
ワンコは保護してから初めてのウンチをしました。
真っ黒で砂や土らしいものが混じったウンチでした。
空腹のため口の届くところにあるものを懸命に食べていたようでした。
食餌をしたことで消化管が動き始め、腸の中に残っていた古いウンチが出たのでしょう。
何度か出ましたが、そのうち真っ赤な血液が混じるようになりました。
これもおそらく腸の粘膜が壊死してしまっていたのが、動きとともに剥げて出血していると思われます。
食べ始めたフードが消化吸収され、良いウンチが出れば一安心です。