生後3ヶ月半の子犬。
とは言え、すでに7kg以上の大型犬。
飼い主さんから電話があった。
「たった今、綿の布巾を飲み込んでしまったんです、大丈夫でしょうか・・?」と、ややパニック気味。
大きさを聞くと、普通の雑巾よりもやや小さめではあるが、到底、幽門(胃から腸への出口)を通過できそうではなかった。
すぐに来院してもらい、同じ布巾を持参してもらった。
飲んだのは確実とのこと。
例によって吐かせるかどうか、悩む大きさ。
食道をきちんと通過してくれるのか、途中で詰まったらどうしようか、最初から麻酔して内視鏡で取ったほうが安全ではないか、胃切開は避けてあげたいけど・・・。
いろいろと頭をよぎる。
結局、嘔吐させることにした。
薬を飲ませてしばらく待つ・・。
吐かない。
もう一度飲ませてさらに待つ・・。
吐かない。
そこで、飼い主さんと相談し、全身麻酔をかけ内視鏡で取り出すことにした。
それでも、万一、飼い主さんの知らないところで嘔吐しているかもしれないので、念には念を入れ一度家に連れて帰ってもらい、車の中や家の中を探してもらうことにした。
飼い主さんから電話。
「帰る途中、車の中で一度嘔吐しましたが、フードと水分が少し出ただけで、布巾は出ませんでした。家の中も探しましたがやはり見つかりません。」
そこで、再び来院してもらい、内視鏡で胃の中を見ることにした。
柔らかい布なので、まず内視鏡で取れるだろう。
そして全身麻酔をかけ、内視鏡で胃の中を探す。
探すといっても小さな胃、布巾は胃の容積のほとんどを占めているはず・・・。
ところが、胃の中は空っぽだった!
モニターを見つめる飼い主さんは再びパニック気味になりつつある。
「腸に行ってしまったんですよね。腸は通過しますか?途中で詰まってしまったら腸を切らなければならないんですよね?」
「お腹の中のどこかにあるんです、レントゲンを撮ってください。レントゲンでわかりますか?」
「腸に入らない大きさ」という僕の言葉もパニック気味の飼い主さんに対して説得力を失いつつある。
しかし、どう考えても腸に入る大きさではなかった。
が、胃の中にも無い。
こうなると考えられるのは、
1.実は飲んでなかった。
2.家か車の中で吐いた。
絶対、飲んだと言われる。
車の中にも家にも無いと言われる。
それでも麻酔を切り、もう一度車と家を探してもらうようにお願いした。
納得できない顔のまま、とりあえず車の中を探しに行ってもらった。
ワンコは麻酔から覚めかけて動き出している。
その時、待合室の向こうから飼い主さんが大きな声で「先生、車の中にありました〜!!座席の下の奥のほうにあったんです。」と。
布巾を大きく振って泣き笑い状態だった(嬉)。
先ほど一度家に帰ってもらう間に車の中で吐いたようだ。
何かのはずみで座席の奥のほうへ行ってしまったみたい。
泣き笑いの飼い主さんはワンコをなでながら、「先生、やっぱり先生の言われることが本当でした、すいません、疑ってて。」
「あらら、僕を疑ってたんですかー(笑)。」
「すいませ〜ん(涙・笑)。」
「はははは。よかったですね。」
結果がよかったので、よかったのである。
それにしても異物食、気をつけましょう。