普通の動物病院の診療日記

November, 2010
-
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
-
-
-
-
PROFILE
shu

小さな町の動物病院の獣医師です。

MYALBUM
CATEGORY
RECENT
RECENT COMMENTS
RECENT TRACKBACK
ARCHIVES
LINK
SEARCH
PR




バリーの寿命とリンパ腫

6才のコーギー、バリー(仮名)のリンパ節が腫れているのに気づかれたのが去年の夏の終わりでした。

お母さん(飼い主さん)はすぐに病院に連れて来られましたが、細胞診の結果、残念ながらリンパ腫であることが判明しました。

念のため、病理検査に出して専門家にも見てもらいましたが結果は同じでした。

 

結果をお母さんに説明します。

リンパ腫(血液の癌)であること。

幸い、化学療法(抗癌剤治療)に効果が期待できること。

治療しなければ2ヶ月くらいで亡くなること。

化学療法の治療間隔や料金、副作用のこと。

 

「抗癌剤を使えば治りますか?」と、当然の質問が返ってきます。

「残念ながら治すことはできません。寿命を延ばしてあげることはできます。」

「どのくらい延びますか?」

「タイプにもよりますが、平均するとおおよそ1年から1年半くらいでしょうか・・。」

「たった、たった、それだけ・・・?」

 

この会話は非常によくある会話です。

 

そして、おうちに帰られて数日間、ご主人と相談されました。

スポンサード リンク
改めて来院され、もう一度最初から説明をして欲しいと頼まれ、もう一度、診断や病気そのものの説明、そして治療方法や予後(寿命)の説明をくり返しました。

そしてお母さんが出された結論は「治療はしないことにします。」でした。

それぞれの家庭にはそれぞれの事情があります。
家族のように大切に愛している動物であっても、極端なことを言えばたとえ可能であっても動物のためにアメリカまで心臓移植に行くことができる飼い主さんはほとんどおられないでしょう。

そこまで大げさなことではありませんが、リンパ腫に対する化学療法もかなりの時間と費用を必要とします。
それで1年しか生きてくれない、と感じられるのは当然のことかもしれません。

それから2週間してバリーとお母さんが再び来院されました。
バリーは痩せはじめ、呼吸が苦しそうになっていました。
苦しそうなバリーを見ることが辛くて仕方ない、けれど化学療法はできない、安楽死もできないと、お母さん自身もとても苦しんでおられました。

バリーにとっては呼吸が苦しいのは辛いことでしょうが、死の恐怖だとか、治療が受けられないことに対する恨みつらみはありません。
逆にバリーのほうが、ふさぎこんでいるお母さんを心配している様子でした。

抗癌剤ではありませんが、ステロイド療法という方法も最初に説明してありました。
ステロイドはリンパ腫の動物の寿命を延ばしてはくれませんが、ある程度生活の質を改善してくれる薬です。
化学療法の時には抗癌剤と併用することも多いです。
バリーのお母さんは、せめてステロイドで楽になれるならと、ステロイドの処方を希望されました。

数日後、再び来院したバリーとお母さんは見違えるように表情が明るくなっていました。
バリーは呼吸が楽になり、活発になり食欲も増していました。
ですが、リンパ節にはほとんど変化がありませんでした。

それから3ヶ月たって冬が始まるころ、家族に看取られながらバリーは静かに息をひきとりました。
お母さんはその間、もしかしたら奇跡が起こってくれないかと何度も何度もバリーと一緒に来院されました。
そしてバリーの飼い主として化学療法を選択しなかったことについて、どうしてもご自分を責める気持ちが収まらず、悩み傷つきながらの3ヶ月でした。
バリー自身は、最近は病院に来ても何も痛いことをされないし、怖い先生がとっても優しくしてくれるからと病院に来るのが大好きになっていました。
診察室を元気に走り回っていましたが、来院のたびに体重は確実に減少していました。

お母さんはバリーが亡くなったあとも何度か来院され、バリーの最後の様子を話されたり、また、「バリーは痛くなかったでしょうか?」、「バリーは苦しくなかったのでしょうか?」といった質問をしておられました。

バリーの寿命はわずか6年ほどでした。
お母さんは化学療法を選択されませんでしたが、バリーは幸せだったと思います。

動物を飼うということは最後まで責任を持たなければなりません。
ですが、その責任というのは何も高額な治療費を使って高度医療を受けることだけが責任を果たすということではありません。
それぞれの飼い主さんが、ご自分たちの家庭内でできる範囲で責任を負っていけばよいと思います。
動物を捨てたり虐待したり、外へ放したり、ノーリードで遊ばせたりする無責任な飼い主さんに比べたら、バリーのお母さんはなんて素敵なお母さんなんだろうと思います。

バリーはきっと天国で楽しく遊んでいるでしょう。


この記事への返信
shu先生、お久しぶりです。
先生のご意見に賛成です。
こんなに大切にされて、バリーちゃんはお母さんに感謝していることでしょう。
お母さんはバリーちゃんを愛しているからこそ、治療の方針に悩んだんでしょうね。
動物の共に暮らすということは、その過程で起こるいろいろなことに責任を持つということ。
悩み苦しむこともその範疇なんだと思いました。
バリーちゃんのご冥福を心よりお祈りいたします。
Posted by トマシーナ | 12:14:38, Feb 01, 2008
shu先生、こんにちは。
なるほどな〜と思いながら、後半の部分を読みました。
バリーのお母さんは、バリーと出会えたことと同じくらい、shu先生と出会えられたことを幸せだったのではないかと思います。
人間の病気と違って、家族とは言え、他の人にその辛い心情を理解してもらうことは難しいと思うときがあります。
そのような時に、獣医の先生が動物や飼い主さんと向き合って、気持ちを受け止めてくれることにどれだけ救われるか・・。
私も、猫たちの最後の時は、獣医の先生に気持ちを吐露できたら一番よいのになぁと思います。(ウチの先生は聞いてくれるかしら・・・)
バリーちゃん、天国でお母さんや先生に「ありがとう」って言ってますね。きっと。
Posted by neko-kobuta | 15:19:26, Feb 01, 2008
バリーちゃんの飼い主さんは、きっと正しい選択をしたと思いながらも、もっとしてあげられることがあったはず、という気持ちが心の奥にずっと残っているのでしょうか。

でも、犬はその時、その時を一生懸命、力いっぱい生きています。
飼い主さんがどんな選択をしようと、バリーちゃんにとっては、大好きな飼い主さんと一緒に過ごす時間が、共に暮らす暖かさが全てだったのではないかと思います。
きっと、体は苦しいナァと思うことがあったと思いますが、心はきっと幸せだったと思います。
どうしてお母さんが悲しい顔をしているのかな?って思いながらも、一緒に居る事の幸せをかみしめながら虹の橋を渡って行ったのではないかな?と思います。
Posted by なんママ | 17:20:13, Feb 01, 2008
くすん。ごめんなさい。泣いちゃいました。おいおい泣いちゃいました(T_T)

そうですね。先生のおっしゃるように、バリーのお母さんは、素敵なお母さんだと思います。
安らかに。バリー。
Posted by みえこ | 20:29:11, Feb 01, 2008
こんばんわ!
前にもコメントさせていただいたことがあるのですが
いつも楽しみにしています♪
バリーくんの話泣いてしまいました!!!ホントに
幸せなコーギーですね♪自分が犬に生まれ変わったら
こんなふうに育てられたいって思うような飼い方を
しなくてはいけないですよね!!

とってもいいお話でお勉強にも毎回なるのでぜひぜひ
リンクを貼らせてください。
不都合がございましたらお知らせください。
よろしくお願いします♪
Posted by みみ | 23:14:23, Feb 01, 2008
トマシーナさん、おはようございます。
お母さんはほんとに悩まれていました。
それだけバリーを愛しておられたんです。
そして立派に責任を果たされたと思います。

neko-kobutaさん、おはようございます。
獣医師が飼い主さんたちのお話をもっと聞けたら・・・、まったくおっしゃるとおりだと思います。
僕もできるだけ聞くように努めているのですが、忙しさのため飼い主さんたちが満足できるだけ聞いてあげられていないのが現状です。
それでも時間に余裕のある時には、できるだけお話をしたり聞いたりしていきたいと思います。

なんママさん、おはようございます。
おっしゃるとおりだと思います。
バリーにとってはお母さんはじめ、家族の皆さんとの暮らしがすべてだったと思うし、愛されているのも十分わかっていたと思います。
6年は短いけれど幸せには違いありませんね。

みえこさん、おはようございます。
いつもいつも泣いていただいてありがとうございます(笑)。
ほんと、バリーのお母さんは素敵でしたよ。

みみさん、おはようございます。
いつもありがとうございます。
バリーやお母さんのような関係は、決して珍しいものではなく、とてもたくさんの飼い主さんたちが同じ関係を築いておられると思いますよ。
リンクの件はありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。

皆様へ。
いつも応援ありがとうございます。
コメントをいただいた方のお名前はメモしてありますが、たくさんの方からコメントをいただくため、抜けてしまっていたりダブっていたりしている場合もあるかもしれません。
もしも初めての方にそうでない返信をしたり、初めてでない方に「初めまして」なんて書いていたらどうぞお許しください。
また、もしも必要でしたらリンクはご自由に貼っていただいてかまいませんので、よろしくお願いいたします。
Posted by shu | 09:28:36, Feb 02, 2008
こんにちは
初めてコメントさせてもらいます。
以前から、先生のブログ見させてもらっていました。
いつも、考える事ばかりで・・・

近所の方でやはり、リンパ腫で昨年愛犬を亡くされた方がおられて・・・
この方も化学治療を選ばれませんでした。
でも、最後まで本当に一生懸命に愛犬に接してられてました。
その後もお会いする度涙を流されて、話してる私もつらくて。
我が家にも愛犬がおりますし、つらい別れもありましたが、確実に避けられない死に対して本当に少しでもここで暮せてよかったと、思ってもらえるように、この子たちは飼い主を選ぶことができないだけに、自己満足かもしれないけど悔いが残らないようにと思います。
なかなか難しいことですけどね。
きっと、バリ−ちゃんも飼い主さんの気持ちはわかってたんじゃないかな?  生意気なこと言ってすみません。
ご冥福をお祈りします。
Posted by nishime | 12:22:39, Feb 02, 2008
こんにちは。バリーちゃんはすごく幸せでしたね。優しいご家族に見守られて。私は母親と父親を介護していて話し合ったことなんですが、もし癌になったら放射線治療はしないとお互いに決めています。でもどの選択が正しいのかは、誰もわからないし、治療に関しては後悔は残るかもしれないけど。だからこそ、愛情と信頼関係が大事ですよね。ただただ苦しい時間は限りなく少なくしてあげたいと思います。
Posted by さっち | 16:29:39, Feb 02, 2008
nishimeさん、こんにちは、はじめまして。
きっとnishimeさんがお話を聞いてあげられたことで、その飼い主さんもずいぶん救われたのでしょうね。
お書きになっておられるとおり、死は絶対に避けられないことですし、ほとんどすべての飼い主さんたちは理屈では理解しておられるはずです。
でも、現実的にはずいぶんと辛い思いをされたり、ペットロス症候群に陥られたりしておられます。
そんな時、話を聞いてくれる人が近くにいるかいないか、ずいぶん違うと思います。
最後に満足できるように飼う(暮らす)ことは簡単ではないかもしれませんが、そうありたいですね。
バリーのことありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。

さっちさん、こんにちは。
いつもありがとうございます。
ただただ苦しい時間を限りなく短くしてあげたい、僕もそう思います。
バリーのこともありがとうございます。
Posted by shu | 17:38:06, Feb 02, 2008
質問の件ありがとうございます。
基本的には一緒なのですね。勉強になりました!

今回も、胸がキューとなるお話ですね。
うちの亡くなった犬を思い出してしまいました。16才の愛犬に痴呆が出てきて毎日の介護に辛くなっていたとき、誤飲により愛犬を亡くしました。私が仕事から帰ってきたらもういないんです。初めは現実が受け止められなくて。仕事柄毎日犬を触るので思い出してしまって辛かったけど、尻尾を振る犬達をみてある意味助けられたりもしました。この経験でいつ何時も、後悔しない飼い方をしようと決意しました。

それぞれの病気に色んな治療法があるけど、バリーくんの飼い主様が決めた治療法は間違った選択ではなかったと思います。
短い6年だったけど家族に愛され、看取られて、充実した一生を迎えられたと思います。
Posted by ナルナル | 18:53:11, Feb 02, 2008
ナルナルさん、おはようございます。
モノを言えない動物達にとって、なるべく苦痛にならずに楽しく暮らせる治療がたくさんできるようになればと思います。
バリーとお母さんのこと、ありがとうございます。
Posted by shu | 07:45:37, Feb 04, 2008
読んでいて涙が溢れてくるのがわかりました。

病気の治療方法は いろいろありますが、飼い主が選択した治療が その子にとって一番の治療なんですよね。
生活を楽しむ。一番の治療ですね。
バリー君は、最後まで優しいお母さんの傍に居られて、本当に幸せだったと思います。

バリー君、今ごろは空の上で きっとで元気に笑っていますね。
空の上でも、いっぱい光輝きますように。
Posted by いち | 11:19:47, Feb 06, 2008
いちさん、おはようございます。
本当にいろいろな選択肢があります。
十人十色とはよく言いますが、十人の飼い主さんには十通りのお考えがあります。
獣医師の考え方や治療法にも様々あります。
組み合わせは無限大ということになります。
いつもいつも最高の組み合わせができるとは限りませんが、それぞれの動物たちにとってその時点での最高であればよいと思います。
バリーのことありがとうございます。
Posted by shu | 09:18:29, Feb 07, 2008
バリーさんのご冥福をお祈りいたします。

先生のお話をうかがうと私は犬を飼うことがすごく楽になります、多頭飼いの我が家、今は元気な犬達ですが、年を取り病気をする時が来るでしょう、でもその時に高度な医療を受けさせてやれるでしょうか?自信がありません。

先生はとてもよい獣医さんと思います
だって、患蓄の飼い主さんのお話をキチンときいてさしあげるでしょ、獣医さんの言葉って飼い主にしてみれば天の声のように心に刺さるンです、特に治療方針について厳しい言い方をされたら自己嫌悪に落ち降ります、でもちゃんとみとめてくださってきっとバリーさんの飼い主さんも心が楽になられたでしょうね、愛犬をなくしお金も使い、叱られたんでは立つせがありませものね。
Posted by コロスケ | 20:10:14, Feb 07, 2008
コロスケさん、こんばんは。
いつもいつもありがとうございます。
暖かいお言葉、本当に嬉しく思います。
僕がよい獣医さんなのかは自分ではわかりませんが、そのように言っていただけて感謝します。
でも・・・、あくまでここはネットの世界です。
現実の僕は、shuさんのようによい獣医さんではないかもしれません(笑)。

ん〜、次の日記はちょっと獣医学からは離れて見ようと思います。
Posted by shu | 22:50:01, Feb 07, 2008
shu先生、ご無沙汰しています。
読んでいて涙が止まらなくなってしまいました。
去年の10月、我が家で繁殖したコリーが同じリンパ腫で八歳で亡くなっています。
そうしてそのコリーの母親は1/17に眠るように亡くなりました。

ブリーダーをやっているので多頭飼育になってしまい、たとえば同じような立場だったら高額な治療は無理‥‥でも、安楽死も出来ない‥‥と、シニア犬が三頭いる状態なので考えさせられます。また、相談を受けた時にどうアドバイスしたら良いかと悩む事も多く‥‥。
飼い主さんがご自分を責めてしまう事で、ペットロスになるのだと経験を通して感じて居ます。それはどんな高額な治療を施しても悔いが残る場合も多くて‥‥‥。

バリー君の日記を読み、愛犬との過ごし方や病気との向かい方など、本当、shu先生の言葉に励まされました。責任を果たす事‥‥‥その通りですね。その方法や考え方は人それぞれですが、その全てが正しいと言えますね。
今年愛犬を失った時に不思議とペットロスには至らず、なぜだろうかと考えていましたが、責任を果たした事(その気持ち)で、悲しい気持ちよりも感謝の心が愛犬を失った時により強く、ペットロスに至りにくいのではと感じました。

長くなりましたが、バリー君、天国のお花畑で楽しそうに走ってることと思います。ご冥福をお祈り致します。
Posted by HERO | 17:20:43, Feb 09, 2008
HEROさん、こんばんは、こちらこそご無沙汰しています。
そうでしたか、HEROさんとこもリンパ腫で亡くなったんですか・・。
母ワンコもですか、ご冥福をお祈りします。
おっしゃるとおり、飼い主さんとしての責任を全うされたことで今までありがとうねという気持ちになられたことがよかったのでしょうね。
ペットロスに陥らないということは結果的には亡くなった子たちも、まだ生きている子たちも、飼い主さんたちも、みんなにとってよいことですよね。
バリーのこと、ほんとありがとうございます。
Posted by shu | 21:59:42, Feb 09, 2008
初めまして 
拝見して、涙してしまいました。うちの子も今同じ病気と闘っております。私の気持ちに少し余裕があるときに色々検索し少しでも多く理解したい気持ちで・・・ 
12歳のバセンジー♂です。両顎下にグリグリを発見したのは4月でした。だんだん大きくなってきた為病院に行きました
Posted by ドリ | 15:33:22, Jun 15, 2011
初めまして 
拝見して、涙してしまいました。うちの子も今同じ病気と闘っております。私の気持ちに少し余裕があるときに色々検索し少しでも多く理解したい気持ちで・・・ 
12歳のバセンジー♂です。両顎下にグリグリを発見したのは4月でした。だんだん大きくなってきた為病院に行きました
Posted by ドリ | 15:33:40, Jun 15, 2011


◇ 返信フォーム


名前 :   情報を保存する
メール : 
URL : 
題名 : 

内容 :