猫さんたちの繁殖シーズン真っ盛りですね。
昨日、午前中に1匹の猫が来院しました。
飼い主さんは「動物病院なんて初めて」というおじいさんとおばあさんです。
受付のほうで「猫が昨夜お産して2匹生まれたけど、今朝も1匹産んで、そしたら何か変なものが出てきました。後産(胎盤)がくっついているのかもしれんです。」とおっしゃってる声が聞こえていました。
順番が来て診察室に入ってこられ、ガムテープで塞いであるダンボールを開けてみると、敷いてあるタオルが血だらけでした。
産後の出血にしては多すぎるし、猫の状態も悪そうだし・・・。
尻尾を持ち上げてみると、10cm弱の肉の塊のようなものがぶら下がっていました。
子宮脱です。
お産の途中や前後に発生することがあります。
体内で袋状になっている子宮が裏返って(反転して)膣部から体外に出てしまう病気です。
靴下を反転させたイメージです。
救急疾患です。
分娩時ですから子宮には栄養血管が発達しており、通常の何倍もの血液が流れ込んでいます。
子宮が反転したことでその血流も止められてしまい、飛び出した子宮は浮腫を起こしさらに膨らんでしまいます。
また、太い血管が破裂したりすれば、出血性のショックを起こしたり、ひどい貧血状態に陥ります。
そのまま放っておくと子宮は壊死してしまいますし、母猫さんは助かりません。
おじいさんとおばあさんに状況を説明します。
子宮を収縮させ、うまく体内に戻して再脱出しないようにするか、戻した後、開腹して卵巣・子宮摘出術(避妊手術)を行うか・・。
しかし、レントゲンを撮った結果、胎内にまだ1匹の胎児がいることがわかりました。
残念ながら胎児はすでに胎内で死亡していました。
こうなると、たとえ脱出子宮を元に戻しても、結局は開腹して亡くなった胎児を帝王切開で取り出すか、胎児ごと子宮を取り出すかしかありません。
今後のお産のことも考えて胎児ごとの避妊手術を勧めました。
おじいさんとおばあさんも、これから先も次々お産されても困るから、そうしてくださいとのことでした。
「猫のお産でもこんなことがあるんですねえ。動物には難産やお産の病気はないと思っとりました。」とおっしゃっていました。
僕も日常の診療の中で、意外と多くの人たちが動物のお産を簡単に考えておられることに驚くことがあります。
今回の猫さんは幸いにもショック等を起こしておらず、手術にも耐えてくれたため元気になりました。
しかし、前の晩に生まれた2匹の子猫は助からなかったそうですし、お腹の中の1匹の子も死んでいました。
この母猫がノラちゃんなら死んでいたでしょう。
あるいはどこか他の場所でお産していたならやはり死んでいたかもしれません。
お産は必ずしもハッピーエンドばかりではないことを再認識しましょうね。