前に長々とワクチンのことを書いてからもう1年になります(早!)。
僕の病院では飼い主さんにワクチンについて細かいことまで説明し、何種にするとか毎年にするかとか一緒に話し合って決めています。
ワクチンが毎年必要か、アメリカの団体が推奨するように3年ごとでよいのか、日本にはまだ根拠のある接種方法が推奨されていません。
もちろんアメリカでも3年ごとにしなければならない、というわけではなく、あくまで推奨ですから、毎年打っている方もおられると思います。
そして前にも書いたとおり、アメリカで推奨される接種方法はあくまでもアメリカでのことであり、そのままそれを日本でも大丈夫とするのは勇気がいるところです。
先日、ワクチンメーカーの獣医師さんと営業さんが院内セミナーを開いてくださいました。
主に犬のワクチンを中心としたお話でしたが、やはりメーカーさんとしては日本ではまだ毎年打っておかれたほうがよい、というお話をされました。
理由として
1.2004年に発表された日本国内での犬パルボウィルス、犬ジステンパーウィルスのワクチン接種効果について発表された文献がある。
(簡単に書きますが)その文献では、パルボウィルスに対する十分な抗体価の上昇が見られた犬は毎年接種している群で100%だったのに対し、3年毎に接種している群では78%しかなかった。
同様にジステンパーに対しては毎年接種群でも94%、3年毎の群だと61%しかなかったとのこと。
抗体価の上昇に明らかな差が見られたので、毎年接種が望ましい。
と、言う内容の文献です。
2.集団免疫の差
これは前にも書きましたが、ある地域から病原体(病気)を無くすためには個人個人がみんなワクチンを接種する必要があります。
みんな(全体の70%)がワクチンを打っていれば、自然、その地域からその病気がなくなっていきます。
アメリカではすでに犬のおよそ70%が混合ワクチンを接種しているにもかかわらず、日本では20%程度の犬しか接種されていないから、簡単に言えばアメリカに比べて病気がうじゃうじゃいるわけで、それなのに日本でアメリカの真似をするのは危険かもしれないというお話でした。
まして、ペットショップでは動物を販売していないため、ブリーダーさんのところですでにワクチンを接種してある動物が販売されるわけで、日本でよく見られるように買ってきて1週間以内にパルボやジステンパーが発症するということはまず起こらないはずです。
このような理由からも毎年の接種をお勧めします、とのことでした。
猫でも接種率がアメリカで50%くらい、日本では10%くらい(外猫などが多いため、正確な数はまったく不明とのこと)であろうと思われるから、犬以上に集団免疫という点ではアメリカに劣っているとのことです。
また、アメリカ人と日本人の気質の差も大きいようです。
例えば、3年毎のワクチン接種で80%の動物の病気を予防できたとすれば、アメリカ人なら「80%も予防できるんなら十分だ。」と考えるのに対し、日本人は「大丈夫というのは100%じゃないと大丈夫とは言えない。」と考えるそうです(笑)。
まあ、気質の差がどこまで本当かどうかは別として、確かに僕ら獣医師が3年ごとで大丈夫ですよと言い切ったら、飼い主さんたちは「うちの子は100%大丈夫なんだ。」と受け取るでしょうね。
毎年接種していても100%大丈夫というのは有り得ません。
メーカーの方は、だいたいこういう内容のお話をされていました。
「売り上げが落ちると困るからってのはないですか?」と突っ込んでみましたが(笑)、「いやいや、そんなことはないですよ〜、勘弁してください。」とのことでした(笑)。
そこで、僕の場合は最初に書いたように、その飼い主さんがどういう飼い方をされているか、どのような飼い方を望まれているか、飼育環境などいろんなことを話し合って、(犬の場合なら)5種でいいのか7種や8種(9種)がいいのか、毎年接種したほうが安心か、3年ごとでよいのかなどを決めます。
猫の場合は3種でいいのか、白血病やクラミジアも必要かどうかですね。
ほとんど他の動物と接触がないおうちなら、犬で5種、猫で3種を「毎年でなくてもいいと思いますよ。」と言います。
しょっちゅうホテルに預けられるとかペットショップに預けられるような場合は日本の現状を話して、「毎年接種のほうが安心ですね。」と言います。
実際に毎年打たれるか3年ごとにされるかどうか、最終的な判断は飼い主さんにしてもらいます。
しかし、どうしてもご自分で決めることができない飼い主さんもおられます。
そのような飼い主さんは、本当に3年ごとで大丈夫だろうかと不安に思っておられるわけですから、そういう場合はあっさりと毎年の接種を勧めます。
日本での確たる科学的証拠や実験的データが出ていない(あるいは少ない)限り、すべての動物に対して3年ごとでいいですよ、と言うつもりはありません。
今はまだ僕らにとっても難しいですが、これから先、また少しずついろいろなデータや論文が出てくるんでしょうね。
先日の日記のうちの猫は以前病院に住んでいた頃は、病気への感染の危険性が高いため、ほぼ毎年3種と白血病ワクチンを打っていました。
現在は他の猫との接触がほとんど無いため、3種のみを3年ごとに打っています。