12才のちぇりー(仮名)というわんちゃんがいました。
5年ほど前から僕の病院にかかり始めました。
飼い主さんはおばあさんと、その娘さんのご家族でした。
5年前、皮膚の病気でそれが免疫性疾患ということがわかり、ずっとステロイド剤や処方食で維持していました。
ステロイドも副作用の出ない程度に軽減することができ、症状もとても安定していました。
ただ、高齢になるにつれて、心臓の病気も起こってきて、いずれは心臓の薬も飲まないとだめかな〜って相談しているところでした。
そして、これもまた加齢のため、いわゆるボケのような症状も出るようになり、ご近所迷惑になることも飼い主さんの悩みとなりつつありました。
先週、おばあさんがちぇりーを連れて相談に来られました。
このところ、夜中に咳が出るようになり、鳴いて自分を呼ぶようになった。
毎晩のように夜中に起きてついてやらなければならなくなった。
夜に寝れないため、自分自身の体力も限界に近い。
隣のおうちから苦情は出てないけれどきっとご迷惑をおかけしていると思う。
心臓の薬も与えたいが、経済的な余裕がない。
ちぇりーのことも大切だけれど、自分自身も家族も、そしてご近所も大切にしたい。
さらに、ここ1,2日、元気と食欲がない。
これから先、どうしていけばよいのか・・・。
簡単にまとめると上記のようなご相談でした。
このようなご相談はときどき経験します。
ですが、答えを出すのがとても難しい相談でもあります。
泣きながら話される飼い主さんと、診察台の上でじっと待っているちぇりー。
もう飼ってやることができない、飼えるとしてもこれ以上薬を増やす経済的な余裕はない、夜中に咳が出ているのを放っておくこともかわいそうだと思う。
いっそ、保健所に連れて行こうかとも思った。
だけどちぇりーがかわいくて、そんなこともできそうでない。
いろいろなお話をしました。
そして、もう一度ご家族でご相談していただくようにお願いしました。
翌日、電話があり、少しずつ食べるようになってきたので、もう少し様子をみながら家族で相談しますとのことでした。
さらにその翌日の夕方、ご家族の方が気づいたとき、ちぇりーは一人静かに息をひきとっていたそうです。
飼い主さんから泣きながらのお電話でした。
自分たちの会話の内容がちぇりーにわかってしまったんだ。
ちぇりーはきっと私たちに迷惑をかけないように逝ってしまったんだと。
動物たちは僕ら人間みたいに自殺なんかしません。
ですが、少なくとも空気を感じることはできます。
ちぇりーが亡くなってしまった直接の死因はわかりません。
本当に飼い主さんがおっしゃるように、飼い主さんたちに気を遣ったのかもしれません。
たまたま心臓の発作が起こったのかもしれません。
ですが、今、ちぇりーは遺灰になり、飼い主さんご家族と一緒にいます。
ちぇりーも飼い主さんも、長い間、本当にお疲れさまでした。