どこにでもある話です。
和歌山県の岩出市に、「青木松風庵」という和菓子屋さんがあります。
結構新しい菓子メーカーですが美味しいお菓子を販売しています。
そこの店に決まって毎月第一日曜日の11時に、『木の実ひろい』と言う焼き菓子を一人の若い女性が買いに来ていました。「無地熨斗でお願いします」と・・・・・。
店の会員カードには他市の住所でしたから、店員さんも「お身内のお見舞いなんだろうなぁ」とうすうす感じていました。
もう8年間も休むことなく続いていました。
店員さんも、「今日はあのお嬢さんの来る日だな」って第一日曜日になると朝からわかります。
その娘は都会で働いて、第一日曜日になると介護施設に入所している痴呆症で寝たきりの年老いた母親をお見舞いに来ていたのです。母親はお菓子を食べれません。
そうです、お菓子はお世話になっている施設の介護士さんたちへの気持ちばかりのお礼でした。介護士さんたちも第一日曜日になると、あ〜今日は『木の実ひろい』が来る日なんだ・・・・。何もわからない母親に「今日は娘さんの来る日だよ、うれしいね」って話かけてくれました。
母親は誰が来てくれたのかもわからないくらい痴呆が進んでいたのですが、娘の顔を見ると寝たままの状態で両目から涙がほほをつたったそうです。
娘は、母親はもう長く生きることができないので、せめて生きているうちに食事の世話をしてあげたり、身体を拭いてあげたり優しく接してあげたかったそうです。
暑い夏が過ぎ、年末になると9年目と言う初秋に・・・・・・。娘さんが店に来なくなりました。お菓子屋の店員さんは、恐らくお身内の誰かが亡くなったのだろうと冥福をお祈りしたそうです。8年間、最後まで『木の実ひろい』の行く先を知らずに・・・・・。
どこにでもある普通の家庭事情ですが後日談。
何度か暑い季節がすぎた秋のある第一日曜日、ちょっと照れて微笑みながら赤ちゃんを抱いた奥さんが、「木の実ひろい8個づつの16個入りをひとつ無地熨斗でお願いします」そばにはこざっぱりした、いかにも清潔そうな若いお父さんが並んでいます。
もちろん顔を覚えていた店員さんが「お久しぶりです」って挨拶すると、「今日は母親のお墓参りにきました、実家のお墓は別の場所なんですがどうしてもこのお店に寄って、母親が生前お世話になって亡くなった施設の介護士さんにお礼を言いたくて」
すさんだ世の中にこんな素敵な話もあるんですねー。
まあ信じる信じないは貴方の心次第です。