南米に棲むオオハシの仲間と同様、特異なクチバシをもつことで知られる鳥が東南アジアに生息するサイチョウである。実はこのオオサイチョウのオス、子育ての季節には涙ぐましい努力をしていることで知られている。樹の洞の中でヒナを温めるメスへとせっせと餌を運び、自分の食事がままならないこともあるようだ。献身的なお父さんの努力があってこそ、次世代をになう子供たちが育っているようである。
体の大きさに比べて大きなクチバシをもつことで有名なのが、南米に棲むオオハシの仲間と、東南アジアに棲むサイチョウの仲間である。両者はその共通点から同じグループの鳥のようにもみえそうだが、オオハシはキツツキの仲間、一方のサイチョウはカワセミやブッポウソウを含むブッポウソウの仲間に分類されているという類縁の薄い鳥たちである。いってみれば他人の空似といったところだろうか。
さてそのオオサイチョウ、特異なのはその姿ばかりではなく、ユニークな繁殖法でも知られている。繁殖期がくるとオスはメスが入れるぐらいの木の洞を見つける。そしてメスはそこにメスはそこに入ると、フンや木クズのようなもので、その入り口を塞いでしまうのである。入り口は、メスのクチバシがわずかに見える程度になる。やがてメスは卵を産み、その巣の中で子供を育てるが、そこからがお父さんにとっては試練の毎日となる。
わずかに開いた入り口から、メスへの餌をせっせと運ぶ。メスが卵を温めている間は自分はろくに食事も取れず、ひたすらメスのためにつくすのである。やがてヒナがその姿を見せる頃になると、オスはすっかりお疲れの様子。それに比べて巣の中でずっとオスからの貢物を頂戴していたメスは、羽も生え変わり体のツヤもよく、見違えるほどだという。
こうしたオオサイチョウの子育ては、天敵からヒナを守るといった点では本当に好都合である。一方でオスに与えられた子育ての試練はかなりのもので、その命さえ奪ってしまうこともあるらしい。そうなった場合は、他のオスがその巣の子育てを引き継ぎ、メスとヒナを守るということも知られているようだ。
1メートルもあるサイチョウが巣づくりをするためには、かなり大きな木の洞が必要である。つまり巨大な樹木の存在が不可欠といえるのだ。オオサイチョウの数が減少しているのは、森林の伐採が大きな原因になっているともいわれている。
また飼い鳥として捕獲されたことも減少の原因となったが、現在では絶滅のおそれのある動植物の商取引を規制するCITESにも取り上げられ、その個体数が保護されている。