なかなか更新ができませんでした(汗)。
さて、今日の手術です。
表題にあるとおり「試験的開腹」でした。
動物病院でこのように言われたことのある方もおられるかと思います。
あまり言わないことですし言いたくないことですが・・・。
どういう意味かというと、「お腹の中に、何か異常があると思われるけれど、確定診断が取れません。試しにお腹の中を切って覗いてみましょう。そのための手術です。」という意味です。
今日、僕が行った手術は、ある大型のメスワンコが1ヶ月近く食欲不振で、48kgあった体重が35kgまで落ちていました。
長い間立っていることもままならない状態で、診察台の上でもふらふらと座り込んでしまいます。
長く食事も取れず、日に日に弱っていく状況でした。
病院には通っておられましたが、点滴などの治療を受けると多少回復し、少しは食事を取る、でも、すぐに食べなくなるという状況が続いていました。
避妊をしていない10才くらいのメス大型犬で、陰部からは出血が続いていました。
出血は腐敗臭を伴い、子宮蓄膿症を疑わせるものでした。
かかりつけの先生の診断では「子宮に炎症がある。」とのことでした。
僕もまったく同じ診断をつけました。
お知り合いのご紹介で転院してこられましたが、超音波エコーでは子宮に蓄膿症らしきものは見えず、しかし、白血球数の増加、白血球の中でもばい菌を食べる好中球という細胞が著明に増加していました。
さらに体内に炎症があるときだけに増加するCRPと呼ばれる蛋白質も著しく増加。
体内に何か強い炎症があることは疑いない状況でした。
しかし通常の子宮蓄膿症と違いエコーでも大きくなった子宮はわからず、多飲多尿という普通に出てくる症状も見られず、とても悩みました。
レントゲンでは腹部には異常が見当たらず、胸部に多少、何か怪しい陰影を発見。
腫瘍かもしれないけれど、確定はできず、という状況でした。
3,4日間、抗生剤、止血剤、栄養剤などの点滴による内科的療法を行いましたが、結果的には症状の改善はみられず、本日、飼い主さんと相談の上、試しにお腹を開けてみることになりました。
どうでしょうか・・、子宮が怪しいという状況証拠は揃っているのですが、確定診断は取れない状況で、弱っている犬に全身麻酔をかけて開腹する・・・。
飼い主さんにとっては、耐えられないほど辛い状況だと思います。
ですが、僕ら獣医師にとってもとてもとても辛い選択です。
日々、弱っていく愛犬を見ることも辛いでしょう。
もしも手術で治るなら、できるだけ体力が残っているうちに決断するほうがよいでしょう。
とにかく悩める状況です。
大学病院などの高度医療センターを紹介し、CT検査などができればまた状況は変わっていたのかもしれませんが、飼い主さんの仕事の都合、ワンコの体力的状況、地域的問題などから、飼い主さんは当院での「試験的開腹」を選択されました。
結果的には、テニスボール位になった卵巣嚢腫を伴った子宮と卵巣を摘出。
子宮内膜は高度の炎症を起こしており、出血の原因であると考えられ、その他、見える範囲での臓器には肉眼的異常はなし。
手術時に脂肪組織や筋肉からの非常に多い出血傾向にあるという状況。
さらには当日偶然見つかった頚部の野球ボール大の腫瘤。
などなど、問題はこれからも山積みでした。
麻酔からも無事に醒め、術中待っておられた飼い主さんとの対面でも一生懸命尾を振って喜んでいたワンコです。
明日の状態、頚部の腫瘤の正体などこれからどうなるかわかりませんが、まず今日一日は無事に終わりました。
「試験的開腹」、言葉には不安が多々残ります。
でも高度な検査などができない地方や、経済的理由で高度検査を受けられないような場合には、止むを得ない選択肢でもあります。
と、言うよりは、「試験的開腹」によって助かった動物も相当数にのぼります。
勇気ある前進も時には必要だと感じます。
いや、本当は「試験的」なんてことを言わなくていいように確実な診断のできる技術、知識、施設、環境などが望ましいですね。
僕も胃が痛まないで済むほうがうれしいです。
現在、本当に少しずつですが、2次診療、3次診療のできる大学病院以外に高度医療システムを持つ総合動物病院ができつつあります。
動物達のため、今後に期待したいと思います。