先日の土曜日のことです。
昼から病院を休んで、ちょっと用事を済ませてから夜の便で大阪へ行くことにしていました。
午前中の診療も間もなく終わる頃、一匹の様子のおかしいワンコが来院しました。
2,3日前から嘔吐が続き、食欲も排便もないという主訴でした。
背中を曲げた姿勢(背湾姿勢)であまり動きたがらず、じっとして不安そうにきょろきょろしています。
嘔吐が止まらず、食べたものや飲んだものをすべて吐いてしまうこと、便も出ていないことなどから、まずは異物などによる消化管の閉塞を疑いました。
レントゲンと血液検査というふうに診断検査をすすめていくと、胃の中には多量の水分が貯留しており、小腸の中にはガスと、ホチキスの針が見えました。
ホチキスの針は尖ったところは内側に折れているため、まずは腸に刺さっているとは考えにくかったのですが、それでも腸を穿孔している可能性も否定できませんでした。
胃の中の多量の水分は、液体が胃から小腸に流出できない状態にあることが考えられ、やはり異物の疑いが濃厚ということになりました。
触診しようとしても痛がってお腹に力が入り、うまく診ることができません。
結局、数時間点滴をして体内の無機塩類などのバランスを整え、脱水から回復させてから全身麻酔をかけ開腹しました。
結果、小腸を4ヶ所、胃を1ヶ所切開し、大腸近くまで繋がっていた細い糸やその糸に絡まっていたホチキスの針、ガーゼのような布(これが小腸に詰まって閉塞を起こさせていました)を取り出しました。
異物を取り出すとすぐに腸の蠕動運動がおこったので、腸はまだまだ元気でした。
しかし、一番かわいそうだったのは、糸の一番端っこ(大腸近くとは反対側)が舌の付け根にループ上に引っかかっていたことです。
舌の付け根は糸が食い込んだため、組織が壊死し腐敗臭までしていました。
糸やガーゼなどのかたまりで遊んでいたワンコ。
面白半分に飲み込んだのでしょうか。
不運なことに糸が一部ほぐれて輪っかになってしまい、舌にすっぽりと引っかかったようです。
残りは胃に入り、腸へと進んで行きます。
しかし、舌に引っかかったループは抜けないので、そのままじわじわ舌の付け根に食い込んでいきます。
腸へ進んだ糸やガーゼは腸蠕動によって先へ先へと進められますが、ついに大きな塊が腸に詰まります。
塊よりも先を進んでいたホチキスの針付きの糸はさらに大腸のほうへ進んでいき、ついに糸の長さがいっぱいになり止ってしまいます。
そしてついには胃腸の運動もストップです。
水分の吸収もできなくなり、喉が渇き水が欲しくなる。
しかし、水を飲んでも胃にたまるばかりで吸収できない・・・。
幸い、元気になって退院して行きました。
前にも書きましたが、様々な異物の中で毒物と並んで危険なのは糸状の異物です。
くれぐれも注意が必要ですよ〜。