多くの飼い主さんにとって一番のご心配は麻酔ではないでしょうか。
避妊手術も去勢手術も一般には全身麻酔が必要となります。
ヒトの盲腸などの手術みたいに、脊髄を麻酔したり局所麻酔での手術も不可能ではないかもしれませんが、ヒトみたいにじっと動かないでいてくれません。
痛くなくても逃げようとしたり、動いたりして結局はよけいに危険になる可能性があります。
そのため、僕らは全身麻酔を施します。
その全身麻酔ですが、実際、どれくらい危険なのかご存知でしょうか?
また、動物病院で説明を受けておられるでしょうか?
実は、残念ながら健康な犬や猫に全身麻酔をかけた場合、どれくらいの死亡率があるかという報告やデータはありません(僕が調べた限りでは、です。)。
しかし、アメリカでの報告ではよく知られているもので、コロラド州立大学が発表したデータなどがあり、僕も飼い主さんにお話しするときにその報告を参考にしてお話をしています。
細かく書くととても膨大になるので、簡単に書きます。
あくまでも病気や事故の犬猫も含まれている数字です。
健康な動物だけでの数字ではありません。
1955年〜1957年の資料では犬の全身麻酔での死亡率は1.2%。
1979年〜1981年では犬で0.43%。
1992年、他のチームの発表では犬で0.11%。
1993年〜1994年のコロラド州立大学では心停止が起こった犬は2556頭のうち0.5%、猫は683頭のうち0.4%で、そのうち47%が蘇生に成功。
また、別の報告で、猫と健康状態と麻酔の関係を報告したものがあります。
6ヶ月齢以上の猫、138頭に30分以上の麻酔をかけ、3頭(2%)に心肺停止が起こったそうです。
この場合、年齢には関係なく、その固体の健康状態が影響を及ぼしたとされています。
つまり、おおよそ0.1〜0.43%の死亡率が報告されていることになります。
くどいようですが、病気の動物も含まれています。
僕はここでは死亡率だけを書いていますが、上記の報告らには例えば呼吸困難や呼吸停止、頻脈(心拍が早くなること)や徐脈(ゆっくりになること)など、他にもいろいろな合併症は報告されています。
そして、上記の報告が出されるために集められた資料は2006年現在からくらべるとどれも10年以上も昔のものです。
麻酔薬は年々進化しており、より安全なもの、より安全な方法へと変わっていきつつあります。
それでも100%の安全はありえませんけど。
麻酔の合併症を減らすため、より安全な手術をするため、僕らもいろいろと努力しています。
よくテレビでお医者さんが手術をするとき、テレビみたいなモニターに心電図が写っており、「ピコーン、ピコーン」と、音が聞こえていますよね。
あれは生体モニターと言って、心電図、呼吸数、血液中の酸素濃度、二酸化炭素濃度、麻酔濃度、血圧、体温などをモニターしてくれるものです。
機械によって差はありますが、呼吸停止や心臓停止などの異常(赤信号)が起こってからあわてて蘇生するのではなく、「異常が起こる前に」黄色信号を知らせてくれるための機械です。
異常が起こる前にわかれば、当然、異常を起こさないようにできる確立が高くなります。
高額な機械なので、持っている病院もあれば、持っていない病院もあります。
以前にも書きましたが、よくお電話で「避妊手術はおいくらですか?」との問い合わせがあります。
安ければよいのはもちろんですが、麻酔に対してどこまで対策をしてくれているかが大切であると思っています。
昔ながらの注射麻酔だけで手術をしてしまう病院もいまだに存在していますし、気管挿管(気管に管を通すこと)し、より安全なガス麻酔を使用する病院もあります。
当然、注射麻酔よりもガス麻酔は機械も高いし麻酔薬自体も高いし、安全重視ならば料金も高くなるのは当然と考えます。
ガス麻酔の中にも数種類あります。
長くなるので今日はここまで。
次回、もう一度ちょっとだけ麻酔の話を書きますね。