この写真は飼い主さんの許可をもらって掲載しています。
同じ病気のワンコに少しでも治療の機会ができたらうれしいですと、飼い主さんがおっしゃっていました。
甲状腺機能低下症。
猫でも起こりえますが、かなり珍しいようで、僕は猫では一度も診断したことはありません。
原因はさまざまで、わかっていない部分も多いのですが、甲状腺というところから出るホルモンが欠如してしまう病気です。
甲状腺そのものに原因がある場合や、甲状腺にホルモンを出すように命令する脳の視床下部というところに原因があったりします。
詳しく書くとたいへんな量になるので簡単に書いています。
甲状腺ホルモンは体のいろいろなところでいろいろな仕事をしています。
そのホルモンが欠如するために、これまた実にいろいろな症状を呈します。
このワンコは「とても大人しい。」「ほとんど寝て暮らしている。」「足先が腫れてじゅくじゅくしている。」「あまり食べないのに太っている」「心拍数が少ない」などの症状がありましたが、飼い主さんは「もともとこんな犬なんです、足先のじゅくじゅくを診てください。」と来院されました。
他に、全身性の脱毛、皮膚が黒っぽくなる、低体温、高コレステロール血症などが多いです。
このワンコの顔を見てもらうとわかりますが、「悲しい顔」、「悲惨な顔」などと表現されることがありますが、粘液水腫や皮膚の肥厚のために皺がより、泣いているような表情になることでも知られています。
飼い主さんは、毎日一緒に暮らしておられるから、「もともとこんな顔の犬なんです」と、思われることが多いようです。
血液を採取して、動物専門の検査センターに送ることで診断がつきます。
診断ができたら、ほとんど一生涯に渡って甲状腺ホルモンを飲ませ続けなければなりません。
この写真はホルモン製剤を飲ませ始めて20日後の写真です。
ワンコの顔に笑顔が戻りました。
動きも活発になり、あまり行きたがらなかったお散歩も飼い主さんをぐいぐい引っ張って歩くようになりました。
飼い主さんは「うちの子は本当はこんな顔だったんですね〜!」、「そういえば子犬のころの写真はこんな顔でした。」と、おっしゃっていました。
とは言え、ずっとホルモン製剤を飲み続けなければならないので、飼い主さんもワンコもたいへんなことには違いありません。
この病気が疑われる場合は、必ず血液検査や尿検査を受けて、通常の検査の他にいくつかのホルモンの測定をしてもらうことが必要です。
また、他のホルモン性の病気との類症鑑別も必要になります。
昔は症状だけから判断(想像)されて甲状腺ホルモン製剤を飲まされることも多かったと聞きますが、現在はちゃんと各種ホルモン測定ができるようになっていますので、きちんとした検査・診断を受けることがとても大切です。