生後約3ヶ月の子犬が2回目のワクチン接種にやってきた。
1回目のワクチン後は特になんともなかったのに、今回はワクチンを打ったとたん、診察台の上にへなへなと座り込んでしまった。
ワクチン接種による副作用ではアナフィラキシーショックが一番怖いけれど、今回は副作用にしてはあまりに早く発現しすぎだった・・・。
打つ前は熱もなく、心音、呼吸音正常、元気食欲あり、飼い主さんから見ても特に異常が認められなかった。
座り込んだ時は若干目や口の粘膜が白っぽくなっていた。
ちょっと緊張して低血糖を起こしたのかもしれない・・・。
ブドウ糖のシロップを飲ませ、それでも一応念のために血圧を上げる薬などを用意して様子を見ていた。
やはりショック症状とは違うようだった。
次第に元気が出てき始めた。
尻尾を振って、立ち上がった。
そして、ファァァァ〜と、あくび。
その時、スタッフが見つけた。
「舌の付け根に糸が見えました!」と。
えっ?
そして口の中を見ると、確かに糸が舌の裏側に見えて、両端が食道の奥に消えていた・・・。
糸とか細いひもは異物食の中でももっとも危険なほうにランクされる。
口から出ている部分を引っ張ればずるずるっと出てきそうに思われるかもしれないけど、もしも腸まで行ってたら、無理に引っ張ると腸を切ってしまうことになる。
胃の中にあったとしても、もしも胃の中で何か別のものに絡まっていたりすれば、胃や食道を傷つけることになる。
軽く引いてみたが抵抗感があり、おそらく腸に達していると思われた。
飼い主さんに糸の心当たりを聞いた。
そして、もしかして針付きの糸がなくなったりしてないかと聞いた。
飼い主さんはちょっと青ざめた。
1、2週間前に針と糸を使ったそうだ。
そしてレントゲン。
見事にお腹の中に針が入っていた。
結局、翌日手術をして針を腸の中から取り出し、腸を2ヶ所切って糸を取り出した。
糸付きの針は腸内をすすんで大腸方向へ向かおうとしていた。
しかし、糸の反対側は舌に引っかかって動かない。
結果的にはぐにゃぐにゃ曲がっている小腸がぎゅーっと巾着の口みたいに縮められ、リンパ節や血管が血行障害を起こし、硬くなり腹水が溜まりはじめていた。
偶然の結果見つかった病気(事故)は、幸い大事に至らず、子犬はすこぶる元気になった。
あのまま気付かなければ糸が舌に食い込んで、悪臭がし始め、嘔吐が始まったり、運が悪ければ腸が壊死したり、針が腸を突き抜けて腹膜炎になったりしていたかもしれない。
本当に偶然のラッキーだった。