よくいる子たちだが、どうしても噛み付いてきて触らせてくれないワンコがいる。
もちろん猫くんたちにもいるけれど。
そのワンコ、3週間近く嘔吐が続き、飲み食いができなかった。
だけど飼い主さんにも噛み付くため、車にも乗せられず、病院にも連れてくることができなかったそうだ。
次第に弱ってくる。
飼い主さんは何か薬だけでもないかと尋ねられるのだが、病気の原因がわからないので、下手な薬を使うとよけいに悪くなることもあるから慎重にあまり弊害のなさそうな薬を渡していた。
しかし、結局飲ますこともできず、嘔吐もとまらず食欲もない。
ワンコが弱ってきたこともあり、飼い主さんがなんとか車に乗せ、抱っこして院内に入り、どうにか採血はできた。
これだけ具合が悪いのに血液検査では大きな異常は見つからなかった。
皮下補液をしてみたが、この場合所詮一時しのぎである。
胃、腸に異物が詰まっていたり、あるいはどこかお腹の中に腫瘍ができている可能性が高いような感じがしていた。
飼い主さんは勇気を持って、まずは内視鏡での胃内の検査を希望された。
全身麻酔に耐えられるのか・・・。
そして、麻酔をかけた。
内視鏡を入れてみる。
食道や胃の内部には特に異常はない。
眠っている間にエコーでお腹の中を見たり、一生懸命触診してみた。
レントゲンも撮った。
胃のあたりが硬いように感じただけで、他には異常がわからなかった。
それから数日、やはり状態は変わらず、悪くなっていく一方だった。
やはり、お腹の中に何かあるのかも。
飼い主さんは再び全身麻酔をかけて、開腹手術を希望された。
相当、弱っているから亡くなるかもしれないのに、それでもいいからと希望された。
そして、先日、開腹してみた。
結果的には、胃の外側(筋層と、付近のリンパ組織)に腫瘍ができており、胃から十二指腸にかけて硬く狭くなっており、食べ物が通過できる状態ではなかった。
胃のほとんどの部分に腫瘍が浸潤しており、肝臓へのリンパ管にも腫瘍があった。
針を刺して、細胞を見た。
消化器型のリンパ腫と診断した。
僕の技術ではとうてい取りきれるものではなく、飼い主さんを電話で呼んだ。
そして、手術の途中で飼い主さんと相談。
1.このまま閉腹(何もせず、お腹を閉じてしまう)。
そして大学病院へ行く。
2.あるいは胃を取りきれるだけ切除して、腸と繋いで、もしも
なんとかうまくいってくれたなら今後抗癌剤で治療する。
3.いずれにしても先はそう長くないから、このまま安楽死をす
る。
つれなく、つらい相談である。
説明しながら自分の胃も痛む。
おそらく、閉腹か安楽死を選ばれると思っていた。
が、胃を切除して腸をつないでみる方法を選ばれた。
僕は外科の専門医ではない。
僕にとってもかなり緊張する手術となる。
胃と腸を切り離し、胃の悪いところをできるだけ切除した。
腸の断端はそのまま閉じてしまい袋小路みたいにする。
そして腸の途中に穴をあけ、胃の穴と縫合する。
外科の先生なら簡単なんだろう。
僕には麻酔をかけてから最後まで5時間もかかった・・・。
麻酔からは順調に醒めてくれた。
暴れて噛むため、飼い主さんはそのままうちに連れて帰った。
本当は絶食をし、点滴をし、数日〜数週間入院させたい症例である。
でも、どうしても連れて帰るとのことだった。
手術が終わってから3,4日目。
まったく食事をしない。
水は飲むようになった。
もしかしたら、このまま亡くなるかもしれない・・。
何しろ食べていないので、縫合した胃と腸などが癒合してくれないかもしれないのだ。
一般的な多中心型リンパ腫は抗癌剤での治療をしなければ4〜6週間で亡くなることが多い。
このワンコはどうなるんだろう。
最近、重たい症例が続く。
ストレスで頭が痛い。
けど、動物たちのためにも頑張らなければ!
で、ストレス解消のため、休診日に遊びすぎて風邪をひいた(笑)。