普通の動物病院の診療日記

November, 2010
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shu

小さな町の動物病院の獣医師です。

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悲しい出来事

書こうか、書くまいか、迷っていたのだけど、正直に書こうと決めたブログなのだから書くことにした。

 

まず、始まりは今から5年くらい前のこと。

診察が終わった時間に電話がなった。

「今、目の前で犬が車にはねられました!すぐに診てください!。」とのこと。

 

工事現場などによくある青いブルーのシートに乗せられて1匹の柴犬が連れて来られた。

口と鼻から血が出ており、呼吸困難でショック状態に陥っていた。

横たわり、息をするのがやっと。

まずは聴診で心拍を確認。

心臓は意外としっかりとしているな、と思いつつ、酸素吸入や静脈留置を行ないながら全身状態を検査する。

そおっと体を触ってみる。

 

背骨が折れていた・・・。

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その柴犬を連れて来てくれた人はまったくの通りすがりの人。
車を運転していたら、前の車が犬をはね、そのまま去って行ったらしい。
動物に対して愛情を持ってくれていたその人は、車を止め、血だらけになった犬を自分の車に乗せて、診てくれる動物病院を電話で探された。
何件かのうち、僕の病院に電話があり、診ることになったのだった。

これが人間ならば、救急車を呼べば、とりあえずどこかの病院には運んでもらえるのかもしれない。
でも、動物にはそうしたシステムがない。

僕の病院に運んで来てくれた人は本当にうれしそうに「ああ、よかったです。これで安心です。他の病院では飼い主さんの不明な動物の治療はできないと断られました。」とおっしゃっていた。

でも、僕の病院だって、年間どれくらいの野良ちゃんたちや、野生の動物が運ばれてくるかわからない。
全部の動物を診ること、そして世話をすることは物理的に不可能だ。

だけど、目の前で血を吐きながら苦しんでいるワンコを見捨てることもできない。
スタッフたちと懸命に治療をした。

結果的には、折れた背骨を治すことは僕にはできなかった。
一生涯、下半身不随。
歩けないし、おしっこが自分ではできない。
誰かが手で、膀胱を圧迫して排尿させなければならなくなった。

誰が、飼う?
拾ってくれた人に電話をしてみた。
「命は助かりました。でも、一生介助が必要です。飼っていただけますか?」
「・・・。」

結局、見捨てることができなかった病院の女性スタッフが一緒に暮らしてくれることになった。
日中は病院で暮らし、手で膀胱を圧迫して排尿させ、夜には彼女の家に帰る。
そういう暮らしをずっと続けていた。

そのワンコは事故の頃から腎臓が悪くなりつつあるのがわかっていた。
慢性腎不全である。
ワンコでも人工透析や腎臓移植は可能であるが、費用が莫大なものになるし、ごく限られたところでしか不可能である。
僕の技術では腎臓移植はできない。

腎臓がダメになってしまうのを少しでも遅らせるために食事療法をはじめ、さまざまな予防、治療をおこないながら、そのワンコは彼女と一緒に幸せに暮らしてきた。
ワンコが幸せだったのは間違いないと思う。

そして、ここ1ヶ月、急速に症状が悪化した。
世話をする彼女はその時は僕の病院を退職していたのだが、「できるだけのことをしたい。」と自分のすべての時間をそのワンコに捧げていた。
僕も知りうる限りの知識や情報を彼女に提供した。

そして、今日、そのワンコが亡くなった。

「院長、たった今、亡くなりました。ありがとうございました。」と彼女から電話があった。

現スタッフや元スタッフたちがみんなそれぞれ彼女の家を訪れて、亡くなったワンコに会いに行ったそうだ。
みんな、ありがとう。

そして、ワンコ、彼女、本当にありがとうね、お疲れさま。

悲しくて悲しくて仕方ないのではあるけれど、彼女は彼女なりにできる限りのことをやってくれていたのだし、僕らも病院としてできる限りのことをしたのだから、これがあのワンコの寿命なんだと思う。

スタッフのみんなはきっとかなりブルーなんだろうな・・・。

だけど、明日からはまた頑張ろう。


この記事への返信
ワンコを病院に連れてこられた方も、5年間飼ってこられた女性も、すばらしい方ですね。
どちらも、なかなかできることではないです。
ワンコはとても幸せでしたね。

うちの猫たち、まだ1歳と2歳なのですが、20年頑張ってもらったとして私は50代。
心置きなくお仕事リタイアして老後の介護に専念するのが夢だったりします。
それまで健康でいてもらわねば!
Posted by たみ | 12:17:16, Sep 14, 2005
ワンちゃん、亡くなったんですね。
とても悲しいことですが、もし事故にあったときに誰からも見捨てられていたらその場で死んでいたかもしれないし、よい飼い主さんにめぐり合い、いろいろ介護してもらって、幸せな人生だったと思います。

よく事故にあって、下半身不随になって、おしっこを出してあげないとだめだという話を聞きますが、そういう介護をしながら犬、ネコを飼っている方はすごいと思います。

わんちゃん、安らかに眠ってください。
Posted by まきっころ | 12:27:48, Sep 14, 2005
たみさん、こんにちは。
家族みんなに看取られて亡くなったそうで、ワンコは幸せだったと思います。
たみさん、20年先のにゃんこの介護、頑張ってください(笑)。

まきっころさん、こんにちは。
自力排尿ができない動物はけっこういます。
飼い主さんたちも最初こそどうしようかと悩まれますが、多くの方が次第に当たり前のように一緒に暮らしていかれますので、本当にすごいと思います。

ワンコのおうちには、昨夜元のスタッフや現スタッフたちが集まってお別れをしたそうです。
最後は安らかだったそうです。
ご心配ありがとうございました。
Posted by shu | 16:56:36, Sep 14, 2005
とても悲しい出来事だと思いました・・・が、その柴犬は、人間にも優しい、親切な人が居るのだと言う事を、わかってくれたかな?と言う気持ちとがごちゃ混ぜになっています。

柴犬をはねて、そのまま知らん振りをして行ってしまう人もいるのですね。
背骨が折れるほどの衝撃と言う事は、はねた本人、気づかないわけはありません。

そういう人間が、悲しいけれど居るのですね。同じ人間として恥ずかしい。

また、ワンちゃんをつれてこられた方、本当に頭が下がります。
大量に出血している、見ず知らずのワンちゃんを、ご自分の車に乗せて病院を探し、つれてこられたのですから。
自分だったら、出来るだろうかと考えてしまいました。

わんちゃん、辛い事もあったけど、最後は手厚い介護を受けながら安らかな日々を送っていたのだと思います。。。
こういう不幸な動物が居なくなるといいな。。。
Posted by こゆ。 | 17:05:53, Sep 14, 2005
こゆ。さん、おはようございます。

捨てられた子猫や、交通事故にあった犬や猫、また野生動物など、さまざまな動物や鳥が動物病院には運ばれてきます。
この件については今日の日記に新しく書きたいと思います。
Posted by shu | 09:18:13, Sep 15, 2005
悲しいですね。。
でも、とても幸せだったと思います。
動物が好き。欲しい。
でも、もともとリスクを背負ったわんちゃんを迎えいれる方がどれ程いるでしょう。
尊敬の言葉の何ものでもないですね。
元スタッフの女性の方、本当にありがとうとお疲れ様でした。

柴ちゃん。安らかに眠ってください。。
Posted by ちぇりママ | 04:56:40, Sep 16, 2005
ちぇりママさん、ありがとうございます。
当日は悲しみでいっぱいでしたが、今は「そのワンコは生きている間はいつも笑っていたし、頑張って世話してもらって、最後は家族みんなに看取られて、そしてここでみなさんから暖かい言葉をもらって、体にハンディがあったにしても他のワンコと同様、あるいはそれ以上に幸せだったよなー。」と思っています。
元スタッフの彼女は芯のしっかりした女性だから、きっとすぐに元気を取り戻してくれると思っています。
Posted by shu | 09:01:50, Sep 16, 2005
つい先ほど、元スタッフの彼女が病院にやってきました。
余った薬品類と、スタッフのみんなへのケーキ、僕にって果物を持って来てくれました。
写真を見せてくれました。
ワンコはたくさんの花やジャーキー、おやつやフードに埋め尽くされていました。
彼女は元気でした。
「きっとこれから何かにつけて、○○がいないことを寂しく感じるんだと思います。でも、大丈夫です。」と言ってました。
Posted by shu | 11:58:27, Sep 16, 2005


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