森の中でクマさんに出会ったら、数を数えられるか聞いてみるといいかもしれない。
最新の研究によれば、霊長類に匹敵する知能を持つ可能性があるという。
飼育下のアメリカクロクマを使った実験では、表示された点の数を区別するなど、数に関する課題をこなせると証明された。
アメリカ、ミシガン州ロチェスターのオークランド大学で比較心理学を研究するジェニファー・ボンク(Jennifer Vonk)氏は、「認知科学者たちに無視されてきたクマなどの動物が、ヒトに近い種と同等の能力を持つ可能性が初めて示された」と説明する。
◆食べ物のため
実験の舞台はアラバマ州のモビール動物園(Mobile Zoo)。アメリカクロクマ3頭のオリに、タッチスクリーン式のコンピューターをカートに乗せて持ち込んだ。“食べ物を得るために働く”とされる大型肉食動物のクマだが、意欲的な被験者だったとボンク氏は振り返る。
クマがコンピューターに近づくと、画面に2枚の画像が表示される。
例えば、複数の大きなドットと複数の小さなドットなどだ。各ドットは黒か赤にランダムに色付けされている。
3頭のクマは鼻や前脚で画面をタッチするよう訓練されており、画像を選択することができる。
無作為に決定された“正しい”ドットをクマがタッチすると、コンピューターからメロディーが流れ、報酬として餌が与えられる。
不正解をタッチした場合、コンピューターからブザー音が鳴り、次の画像が表示される。
その後、正解の画像(数が多い方、少ない方など)をクマが覚えたか確認するため、同じパターンの画像を見せた。
すると、3頭すべてが餌を得られる正しい画像を選択した。これで“数える”能力を詳しく調べる準備が整った。
◆“数を数える”クマ
実験を続けた結果、「ブルータス」という名前のクマがその才能を発揮した。
ブルータスにはまず、大小複数のドットの画像を表示した。
次に、最初とは背景の大きさが異なり、しかも動いている画像を見せた。
手掛かりに一貫性がなかったにも関わらず、ブルータスは正解を選んだ。
ドットを“数え”て、餌が得られる方を区別した可能性があるとボンク氏は考えている。
◆餌を見つけるために知能が発達?
アメリカクロクマは単独行動の雑食動物であり、多様な餌の供給源を探し当てるには問題解決能力が必要だ。
その才能は実験で裏付けられたと研究チームは述べる。
ミネソタ州自然資源局(Minnesota Department of Natural Resources)でクマ関連プロジェクトを率いるデイブ・ガーシェリス(Dave Garshelis)氏も、餌の供給源の急激な変化に対応するため、認知能力が高まったのではないかとコメントしている。
「ビュッフェの列に並んでいると想像してみてほしい。前に進みながら、皿に何を乗せるか選択しなければならない。しかも、絶えず新しい料理が提供され、次に何が出るかもわからない」。
これがクマの直面する状況だとガーシェリス氏は説明する。
例えば、夏になると果物を探し歩くが、ある年には豊作だった果物が翌年はほとんど見当たらないこともあるという。
研究の詳細は「Animal Behaviour」誌で6月4日に発表されている。
Photograph by Michael Nichols, National Geographic